活動レポート Report

パキスタン大洪水から1年:被災地は今

2023年8月25日

2022年夏に発生したパキスタン大洪水から約1年が経ちます。国土の3分の1が水没したと言われる歴史的災害では3,300万人が被災し、約1,700人が死亡しました。AAR Japan[難民を助ける会]は発生直後に緊急支援を開始し、現在も被災者に寄り添う支援を続けています。パキスタン・イスラマバード事務所の小柳勇人が被災地の今を報告します。

ヒラさん(左)と姉のマルワさん(中央)、友人のシャビーナさん(右)の写真

AARが支援したアフガニスタン難民居住地の少女たち=パキスタン北西部ハイバルパフトゥンハー州

元に戻りつつある被災者の生活

「洪水が起きた時は、この先どうなるか見当もつかなかったけれど、今は家族みんなで頑張っています」――。パキスタン北西部ハイバルパフトゥンハー州の被災地を訪ねると、人々の生活は洪水前の状態に戻りつつありました。破壊された建物の多くが修復され、被害を受けた畑で作物が育ち、制服姿の子どもたちもいて、学校の授業が再開されていることがうかがえます。

日常生活を送る人々の写真

被災したアフガニスタン難民居住地の様子

AARが当初から支援するアフガンニスタン難民居住地で、6歳のヒラさんは満面の笑みで話します。「洪水が起きた時はチャパティ(パン)しか食べるものがなかったけど、今はオクラやジャガイモ、豆とか野菜がいっぱい入ったカレーが食べられるよ! 飲み物も水だけじゃなくて、ちゃんとお茶を沸かして飲んでるんだよ!」

少しだけ余裕ができたので、両親は最近、ヤギとニワトリを飼い始め、新鮮なミルクや卵がとれるそうです。母親は「1年前は今のような暮らしに戻れるなんて想像もできなかった。大変な時期もあったけど、家族8人で支え合って生きてきました」と話します。

食料配給の列が長く続いている写真

食料配付を待つアフガニスタン難民居住地の人々

被災地では当時、農作物が大打撃を受けて食料不足が発生したほか、井戸が破壊・汚染されて深刻な水不足に陥りました。トイレや手洗い場などの水衛生施設が軒並み壊れ、屋外で用を足さざるを得ないなど衛生環境は劣悪で、感染症や下痢が蔓延しました。

AARは被災者の中でも支援から取り残される可能性が高い障がい者世帯、およびアフガニスタン難民の家族を対象に、給水支援や食料・衛生用品などの提供を行うとともに、井戸や手洗い場の設置を進めてきました。

人力のポンプ式井戸を動かす笑顔の親子

AARが被災地に設置した井戸を使う親子

復興が進まない南部の被災地

パキスタンの地図。シンド州、バルチスタン州は南部に位置する

AARが活動する同国北部では復興が進む一方、洪水被害が大きかった南部のシンド州やバルチスタン州では、長期にわたって水が引かず支援が遅れました。そのため、約1年が経過した現在も、発災直後のような荒れ果てた光景が広がっています。

1年前の洪水の水が引いておらず、池のようになったままの様子

1年近く経っても水が引かない被災地=パキスタン南部バルチスタン州

シンド州で洪水被害を受けた20の小学校を調査したところ、そのうち18校は清潔な水が得られる井戸・水道が校内になく、16校は使用可能なトイレがひとつもありませんでした。トイレがある場合でも、児童242人に対して1基しかないなど、とても充分な衛生環境とは言えず、これらすべての学校で子どもたちは屋外で用を足していました。そのため、AARは同州の小学校で井戸やトイレなど水衛生施設の整備を急いでいます。

復興が進む地域がある一方、まだまだ発災直後と変わらない生活を送る人々も少なくない状況で、一律ではないさまざまな支援が必要とされています。洪水被害は今なお続いています。AARのパキスタン洪水被災地支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。

小柳 勇人OYANAGI Yutoパキスタン事務所

民間企業勤務や教員を経て2021年12月にAARに入職、2022年3月よりパキスタン・イスラマバード事務所駐在。

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