活動レポート Report

南部2州で国内避難民支援を開始:ウクライナ現地報告

2023年11月20日

ソファに座る老夫婦

国内避難民受け入れ施設で暮らすヘルソン州出身のオレクシーさん(左)、ルドメラさん夫婦=ウクライナ南部ミコライウ州コブレヴォで2023年11月17日

ロシアによる軍事侵攻が始まって20カ月余り、ウクライナでは東部・南部を中心に激しい戦闘が続いています。AAR Japan[難民を助ける会]は現地協力団体と連携して、南部ミコライウ、ヘルソン両州の国内避難民や地域住民に現金給付・食料配付を行う支援活動を近く開始します。AAR東京事務局の中坪央暁がミコライウ州から報告します。

ウクライナの地図

ダム決壊「町全体が水に沈んだ」

「ドニプロ川が急に増水して、あっという間に町が水深5メートルの洪水に飲み込まれてしまったんだ。私たちは小船を持っていたので辛うじて脱出できたが、死んだり行方不明になったりした人もたくさんいたよ」。黒海に面したミコライウ州西部の町コブレヴォに設けられた国内避難民の受け入れ施設で、ヘルソン州出身のオレクシーさん(72歳)は身振り手振りを交えて話しました。

ヘルソン州は2014年、ロシアが一方的に併合したクリミア半島の付け根に位置する戦略的に重要な場所です。昨年2月の軍事侵攻開始後、ロシア軍が同州全域の制圧を宣言しましたが、11月にウクライナ軍が州都ヘルソンを奪還。その後も激戦が続く中、今年6月に州内にあるカホフカ水力発電所ダムが破壊され、ドニプロ川下流域の住民1万7,000人超が避難を余儀なくされました。この事件はロシア軍が関与したと考えられています。

船大工と漁師を兼業していたオレクシーさん、妻ルドメラさん(74歳)は救助隊に助けられた後、西隣のミコライウ州に移送されました。海辺のリゾートとして開発された田舎町コルレヴォにはホテルや保養所が散在し、夫婦は地元行政とNGOが避難民受け入れのために運営する簡素な宿泊施設に滞在しています。「洪水で何もかも失ってしまい、ここの人たちに食材や毛布、古着などをもらって、まあ何とかやっているよ」とオレクシーさん。

ともに高齢の二人は一定の医療サービスを受けているものの、がんの疑いがあるルドメラさんは「がん治療薬や鎮痛剤は無償ではもらえず、おカネがないので買うこともできません」。オレクシーさんも心臓のペースメーカーを装着しており、不自由な避難生活の中で健康上の不安を常に抱えています。ベッド2台でいっぱいの狭い部屋を訪ねた時、二人が食べかけていた昼食も決して満足できるものには見えませんでした。

成人した息子と娘は旧ソ連時代からロシアで生活しており、家を失った老夫婦はここ以外に居場所がありません。今一番欲しいものは何か尋ねると、オレクシーさんは「平和、そして輝く青空。それから、そろそろ寒くなってきたので温かい冬服があるといいね」。ルドメラさんも迷うことなく「一日も早く戦争が終わること」と答えました。

子どもの成長を心配する母親たち

小さな子どもを膝に抱えたお母さんと小学生くらいの子どもたちが並んで座っている

ヘルソン州から避難して来たナターシャさんと4人の子どもたち

避難民の多くは女性と子ども、高齢者で占められ、外廊下には子供服や下着の洗濯物がたくさん干されています。同じ施設で暮らすナターシャさん(32歳)は、長女(11歳)と息子3人(10歳・9歳・2歳)を連れて、ヘルソン州から今年4月に逃れて来ました。「毎日のように激しい砲撃があり、このままでは子どもたちを守れないと思って、ミコライウ州に来ることを決意しました」。夫は別の場所にいて、ナターシャさんひとりで4人の子どもたちの世話をしています。

当面の生活も心配ですが、ナターシャさんが何より案じているのは教育のこと。「娘たちはヘルソンの小学校のオンライン授業を受けていますが、うちにはスマホ1台しかなく、まともに勉強できる環境とは言えません。せめてタブレットPCを買ってやりたいけれど、食べさせるだけでも大変ですから」。この先もヘルソン州に戻れるとは考えておらず、「故郷を離れて暮らすことになっても、子どもたちにはちゃんと学校教育を受けさせたい。そうは言っても、こんな状況ではどうすればいいか分かりません」。

別の部屋では、赤ちゃんがタオルケットに包まれて眠っていました。夫と3歳の息子とともに施設に滞在するロザリナさん(28歳)は3週間前、州都ヘルソン郊外から移ったこの町の病院で女の子を出産したばかり。通常の食事や生活必需品に加えて、「赤ちゃんのミルク、おむつ、病気になった時の薬などが必要です。何も持っていない私たちは誰かに助けてもらうしかありません」と心細そうに訴えました。

ベビーベッドに寝かせられた子どもの傍らで、幼い子ども抱く母親

避難先のコブレヴォで3週間前に女の子を出産したイリーナさん

現地協力団体と現金給付・食料配付

激しい戦闘に加え、ダム決壊による洪水の影響もあって、ミコライウ州では現在約55万人、ヘルソン州では約24万人が人道支援を必要としています。AARは現地協力団体「The Tenth of April」(TTA/本部オデーサ)と連携して、両州に滞在する国内避難民、および地域住民(障がい者・高齢者世帯など)への現金給付(1人当たり3,600フリブニャ=約1万5,000円×3カ月分)と食料配付(2カ月分)の準備を進めています。

TTAは難民・国内避難民をはじめ社会的・法的に弱い立場に置かれた人々の人権保護に取り組むNGOで、同国南部を中心に避難民の保護、生活支援、法的支援などを行っています。マリーナ・クロチキナ代表は「AAR Japanをパートナーとして、最も困難な地域にいる人々に支援を届ける事業ができることをとても嬉しく思います。日本の皆さんのウクライナ支援に感謝します」と話します。

崩壊した建物

ロシア軍の無人機攻撃で全壊したコブレヴォの観光施設。今年7月のクリミア大橋爆破への報復として黒海沿岸部が一斉攻撃された

AARは昨年3月以降、ウクライナ難民・国内避難民や障がい者団体への支援活動に取り組んできましたが、事態が長期化する中、困難な状況に置かれた人々に寄り添う支援がいっそう重要になっています。AARのウクライナ人道支援へのご協力を重ねてお願い申し上げます。

ウクライナ解説動画(読売テレビ×AAR Japan)

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ご協力をよろしくお願い申し上げます。

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*日本外務省の海外安全情報(2023年11月現在)では、ウクライナは「レベル4:退避勧告」に該当しますが、AAR Japanは独自の情報収集に基づき、安全を確保して短期間入国することは可能と判断しました。AARは今後も万全の安全対策を講じながら、ウクライナ人道支援に取り組んでまいります。

中坪 央暁NAKATSUBO Hiroaki東京事務局兼関西担当

全国紙の海外特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の派遣でアジア・アフリカの紛争復興・平和構築の現場を継続取材。2017年AAR入職、バングラデシュ・コックスバザール駐在としてロヒンギャ難民支援に約2年間携わる。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』、共著『緊急人道支援の世紀』、共訳『世界の先住民族~危機にたつ人びと』ほか。

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