活動レポート Report

トルコ地震の被災地を歩く:フォトジャーナリスト川畑嘉文さん

2023年12月26日

トルコ南東部で今年2月6日に発生した大地震は、隣国シリアと合わせて約5万7,000人が死亡し、発生からもうすぐ1年となる現在も、家を失った多くの被災者が冬の寒さの中、コンテナの仮設住宅などで不自由な避難生活を余儀なくされています。AAR Japan[難民を助ける会]のパートナーであるフォトジャーナリスト、川畑嘉文さんが12月、被災地の今を取材しました。

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がれきの前に佇む女性

震災時の経験を話してくれたセルピルさん=トルコ南東部カフラマンマラシュ県

がれきに埋もれた息子を救出

「お母さん、息が苦しい。死んでしまうよ、助けて……」。トルコ南東部カフラマンマラシュ県で暮らす5人家族のセルビルさん(42歳)は、3階建ての自宅が倒壊し、息子のラヒム君(当時13歳)ががれきの下敷きになった時のことを、今も悪夢のように思い出すといいます。

「地震が起きた時は雨が降っていました。靴も履かずに家を飛び出し、服も濡れて凍える寒さでした。がれきの下からラヒムの声が聞こえ、警察や消防署、軍隊に手当たり次第に助けを求めたのですが、いくら待っても救助は来ません。無理だとわかっていても、何度もがれきをどかそうとしましたが無駄でした。夜が明けて、通りがかりの人たちに『息子がとり残されているんです。お願いですから助けてください!』と訴え続けましたが、皆それどころではなく、誰も相手にしてくれませんでした」

絶望感に陥りそうになった時、たまたま一台のクレーン車が通りかかり、セルビルさんは道路に飛び出し、必死に両腕を広げて車を止めました。「運転手はクレーンで崩落した屋根を釣り上げようとしてくれましたが、持ち上げることができません。しばらくすると幸いもう一台のクレーン車が到着して、2台のクレーンでがれきを取り除き、辛うじて息子を救助することができました。アッラー(神)が助けてくれたに違いありません」

崩れた高層の建物

崩壊寸前のビルが放置されたままのマラシュ市街

厳しい冬を前に募る不安

家を失った一家は、しばらくの間、親戚の車の中で過ごしたといいます。震災から1カ月後にトルコ政府の災害緊急事態対策庁(AFAD)からテントを支給され、10月になってようやくコンテナハウスが届きました。併せて政府から1,000リラ(約5,000円)の現金支給がありましたが、物価が高騰した被災地ではあまりに少ない額でした。その後3カ月間は食料配給もありましたが、セルビルさんたちが暮らしているのは、政府が設営した公式避難所ではないため、今は食料を受け取れずにいます。

家族の中で唯一の稼ぎ手だった長男アデム(23歳)さんは、以前から患っていた足のけがが震災以降に悪化し、離れた町にある会社に通勤できずに職を失ってしまいました。現金収入が途絶えた一家は、飼っていた山羊3頭も食べてしまい、「私たちに今一番必要なのは日々の食べ物です」(アデムさん)。一家は近隣住民から食料を少しずつ分けてもらって何とか生きている状態です。

不安はそれだけではありません。コンテナハウスは屋根や壁の継ぎ目が粗く、大雨が降ると室内に水が染み込んで、敷いていたカーペットは何度もびしょびしょになってしまいました。アデムさんは「これから寒い冬がやって来ます。どうやって冬を乗り越えればいいのか分かりません」と訴えます。AARはこの日、避難生活を送る世帯にコンテナを風雨から守るシートを届けました。また、越冬支援として防寒ジャケットとブーツの配付を進めています。

がれきの前のバス停にいる家族

マラシュ市内の停留所でバスを待つ人々。周囲にはがれきが広がっていた

トルコ政府は被災者のための仮設住宅の建設を急いでいますが、入居できるのは2024年春以降になる見込みで、何もかも失った被災者たちは、本格化する厳しい冬をコンテナハウスで越さなければなりません。支援が圧倒的に足りない一方で、国際社会の関心が薄れる中、別の村で出会った女性の言葉が強く印象に残りました。

「私たちを覚えていてくれて、ありがとう」

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川畑 嘉文KAWABATA Yoshifumiフォトジャーナリスト

1976年 千葉県出身。米ペンシルベニア州立大学卒業後、ニューヨークのニュース会社に記者として勤務。9.11米国同時多発テロ事件(2001年)の取材を機に写真を始める。翌年退職、タリバン政権崩壊後のアフガニスタンに渡る。帰国後、東京の撮影事務所で撮影技術を学び、2005年からフリーランス。世界各地の難民キャンプや貧困地域、自然災害の被災地などを取材し、メディアに写真・記事を提供。ドキュメンタリー動画の制作にも携わる。

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