復興に向けた取り組みが続く能登半島地震の被災地で、AAR Japan[難民を助ける会]は被災した障がい福祉施設、障がい者世帯への支援に力を入れています。その中で見えてきた問題のひとつが、外見的に気付きやすい身体障がいと比べて、発達障がいや精神障がいなど一見して「見えない障がい」がある被災者の悩みです。これは能登に限らず、大規模災害が起きる度に起きる課題でもあります。被災地の切実な声を紹介します。
「多くの被災者が集まる避難所で、精神障がいのある利用者のことを理解してもらうのは非常に難しい現実がありました」。障がい者や不登校・引きこもりなどの問題を抱えた人たちを支援する一般社団法人「ともえ」(石川県七尾市)管理者の松下順子さんは大きなため息をつきました。「避難所で2カ月間、一般の被災者の皆さんとずっと一緒にいると、ささいなことがトラブルになって、『頭がおかしいやつらや』などと言われてしまって」。
一見しただけでは気付きにくく、周囲から理解されにくいのが、発達障がいや精神障がいです。環境が変わることでパニック状態になり、大声を出すなどのケースもあるため、災害発生時には避難所での集団生活に適応するのが難しく、しばしばトラブルとなることもあります。
避難所でトラブルが発覚した後、松下さんたちはしばらく様子を見ていましたが、2人いた利用者のうちひとりは別の福祉施設のショートステイを利用することなり、もうひとりは別の避難所に移らざるを得ませんでした。「理想的には障がいの有無にかかわらず、一緒に過ごせればいいのですが……実際は難しいですね」。災害時に障がい者が安心して避難生活を送れる「福祉避難所」などの場所づくりの重要性を再認識したといいます。
障がい当事者の家族も大変な思いをしています。玄関に「危険」と書かれた赤紙が張られた珠洲市内の2階建て住宅民家。ここに住んでいた山崎綾乃さん(60歳)は、自閉症の次男(32歳)を連れて、夫と長男の家族4人で2週間近く車中泊を余儀なくされました。見知らぬ多くの人が集まる避難所に着いたところ、次男が頑として車から降りようとしなかったからです。うまく会話ができず、知らない場所や人混みにストレスを感じやすいといい、「誰かひとりは次男と一緒にいないといけないので、避難所で過ごしつつ、家族が交代で車中泊するしかありませんでした」。
2週間後に金沢市内の親類宅に移ったそうですが、そこでもうまくいきませんでした。「親類といってもよその家なので、『勝手に電気のスイッチ触ったらだめ』とか次男への小言が多くなり、次男も暴れたりして、もう戻ったほうがいいかなと」。1月下旬に再び避難所に戻りましたが、数日はまた車中泊となり、福祉関係者を通じて紹介されたのが、地域の福祉避難所である障害福祉サービス多機能事業所「さざなみ」でした。
同施設の2階は広い個室になっていて、発生直後の避難所では車から降りようとしなかった次男が、さざなみに着くとすんなり降りて、部屋で穏やかに過ごすようになったといいます。次男は支援学校高等科を卒業後、福祉施設に通っていた時期もありますが、他の利用者とのトラブルになることを危惧され、退所せざるを得なかった経緯があります。
「震災時はみんな自分たちのことで精いっぱい。仮設住宅に入れるまで、次男のような存在でも落ち着いて避難できる場を提供いただいて、とてもありがたいです」と山崎さんはほっとした様子で話します。さざなみには他にも障がい当事者の家族ら10人以上が滞在しており、AARは施設にコメをお届けしました。
他方、「ともえ」では、避難所生活を余儀なくされている障がい者を受け入れたり、今後の災害時・緊急時に備えた避難場所として利用したりするために、同法人が所有する空き施設の整備を計画中で、AARもサポートを検討しています。AARの能登半島地震被災者支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。
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