台湾東部で4月3日に発生した地震から間もなく半年、被災地の花蓮県では、台湾随一の観光名所「太魯閣国立公園」の観光業が深刻な打撃を受けた状況が続いています。AAR Japan[難民を助ける会]は発生直後に現地協力団体「基督教芥菜種會」(The Mustard Seed Mission:MSM/本部:台北市)と支援活動を開始し、現在は観光関連業の仕事を失った被災者をサポートしています。AAR東京事務局の桐生栞が報告します。
緑に包まれた花蓮市郊外のMSM活動センター。宿泊施設のキッチンで昼食の準備をしていたのは、太魯閣国立公園にある5つ星ホテル「シルクスパレス タロコ (太魯閣晶英酒店)」のシェフとして働いていたチェン・スーインさん(28歳)。ホテルで培った料理の腕を生かして、宿泊施設で提供する食事の調理を担当しています。
これは災害などで収入を失った人に仕事を提供し対価を支払う「Cash for Work」という生計支援プログラム。MSMは日本でのご寄付に基づくAARからの資金提供を受けて、このプログラムを実施し、宿泊施設の食事の調理や清掃、同団体のセンターに通う子どもの英語指導員など、8月末までに38人がそれぞれの能力と経験を生かした仕事に従事しました。
地震発生時、太魯閣一帯は土砂崩れで道路が通行止めになり、観光客など多数が孤立しました。約400人がヘリコプターで救助されましたが、スーインさんは4月中旬までホテルに留まり、なお取り残された約600人に約2週間、料理を作り続けました。この場所では、ホテル従業員が乗ったシャトルバスが落石に直撃され、インターンとして勤務していた17歳の高校生が亡くなる痛ましい事故も起きました。
ホテルは10月に営業を再開する予定ですが、「いつも通っていた道路は崖崩れが起きて、まるで地獄のようでした。自分が誇りを持っている仕事なので、早く復帰したいけれど、怖くて同じホテルにはとても戻れません」とスーインさん。それでも「ここでの仕事は給料も設備も元の職場と比べて良くないけれど、自分の料理を食べた人が喜んでくれる姿を見ると嬉しいですね」と話しました。
MSM活動センター内のカフェでは、女性たちがコーヒー豆の選別作業をしていました。市内で独り暮らしをするシュ・リーインさん(64歳)は、自宅には大きな損傷がありませんでしたが、働いていた土産屋が閉店し、収入が途絶えてしまいました。「海外からの観光客もたくさん来て花蓮は賑わっていましたが、地震の後はパッタリ客足が途絶えてしまいました。店が再開する見込みはなく、今後の生活はどうなるか分かりません」とシュさんは話します。
この生計支援プログラムは、被災者が仕事を通じて地域社会と接し続けることで、震災のショックでふさぎ込んで孤立してしまう悪循環を防ぐ一助にもなっています。リーインさんは「今はここで働けるだけでも幸運です。皆さんに親切にしてもらい、収入も得ているのですから」と微笑みました。
震災発生から半年が経つ現在も、多くの被災者が今後の生活がどうなるのか不安を抱えています。AARとMSMは、そうした人々が少しでも前を向けるようにサポートを続けてまいります。これまでお寄せいただいた皆さまからのご支援に重ねて御礼申し上げます。
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桐生 栞KIRYU Shiori東京事務局
民間企業に勤務した後、2024年にAAR入職。広報コミュニケーション部で制作業務を担当。