ミャンマーでは、障がい者は何もできない人、障がい者に教育は必要ない、学びたいなら特別な学校に行くべき、という偏見や考えが根強く残っており、障がい者が普通教育を受ける機会は限られているのが現状です。AAR Japan[難民を助ける会]は、障がいの有無などに関わらず、子どもたちが同じ環境で一緒に学ぶインクルーシブ教育(IE)を推進する活動を、ミャンマーやカンボジアなどの国で行っています。AARヤンゴン事務所は、2020年12月から2024年10月まで、ヤンゴン地域の公立学校でIEを推進する事業を実施しました。ミャンマー駐在員として事業を担当した堀内好恵が報告します。
この事業で実施した活動は大きく分けて3つ。1つ目は、バリアフリー改修工事や補助教材の提供などの学習環境の整備。2つ目は、IEの促進活動を行う子どもサポートグループの育成。3つ目は、IEへの理解を促進する啓発活動です。
このうち2つ目の「子どもサポートグループ」は、地域に暮らす障がい児をサポートしたり、学校や地域でIE促進活動を行ったりするために結成されたグループです。メンバーには障がい児の保護者だけでなく、地域のボランティアも参加しています。
AARは、このグループの活動のサポートや、研修を通じた能力強化を行いました。AARの事業が終了した後も、グループが自立した活動を続けられるようになること、ひいては、インクルーシブな地域環境が構築され、障がい児・者が地域の一員として生活できる社会が持続されることを目指します。
今回の事業では9校を対象とし、3校あたり1つ、計3つの子どもサポートグループを結成しました。複数の学校にまたがった構成にすることで、他校のメンバーと情報交換したり、相談したりできるようになることが狙いです。
各グループは、地域内の障がい児の情報をリスト化することから活動を開始し、リストを元に年3回、障がい児の家庭を訪問して聞き取りを実施。「補助具がなく学校に通えない」「他の子の保護者から苦情が来て、通いにくくなった」など、各々のニーズや課題を把握する活動を続けました。また、近隣の住民や知り合い、職場の同僚など、地域の人々に啓発資料を配付したり、活動を通じて自身が得た知識や経験を伝えたりすることで、障がいやIEへの理解を広めました。
グループの能力強化は、AARが長年ともに活動をしている障がい児施設のエデン(EDEN Centre for Disabled Children)と共同で行いました。研修内容は、障がいの知識や介護の仕方に関するものなどに加え、自立した活動を継続できるよう、相談支援やモニタリングについてのものも含まれます。
研修を担当したエデンの職員は、「研修を受けるまでは、自身が障がい当事者であったり、子どもに障がいがあったりする場合でも、どのように介護すればいいのか分からないメンバーもいました。研修を受けたことで障がいへの理解が深まり、障がい児一人ひとりに合わせた介護ができるようになりました」と、メンバーの変化を嬉しそうに話します。
グループの活動が地域社会にもたらした良い変化は、目に見える形で表れています。障がい児が普通学校に通えるという情報がメンバーを介して地域内で広く共有され、実際に通うようになった障がい児は少なくありません。また、学校を休むようになった障がい児をグループメンバーが訪問、話を聞き、教員とともに対応したという事例もあります。
AARがヤンゴンで運営する障がい者の職業訓練校の教員は「訓練生が入学までに教育を受けたかどうかによって、技術習得に差が出ます。そしてその差は、卒業後の就労にも影響します」と話します。教育を受けることは、障がいのある子どもたちにとって、未来を切り開くための重要な役割を果たすと言えます。
今のミャンマー情勢では、学校を対象としてIEを推進する活動が難しい状況です。しかし、せっかく芽生えた障がい児・者の社会参加への歩みを止めてはなりません。AARが長年培ってきた知見を生かして、ミャンマーの障がい児への支援を続けてまいります。引き続きご支援くださいますよう、お願い申し上げます。
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堀内 好恵HORIUCHI Yoshie東京事務所
日本の病院やデイケア、青年海外協力隊で理学療法士として従事した後、2023年12月にAAR入職。2024年1月よりミャンマー・ヤンゴン駐在、11月より東京事務所支援事業部。