能登半島地震から1年9カ月、奥能登豪雨から1年が経ちます。被災地の障がい者施設では、利用者が少しでも日常を取り戻せるよう、職員の方々が懸命に活動を続けてきました。そうした支援を行う職員の方などをサポートすることを目的とした研修会が、9月上旬、AAR Japan[難民を助ける会]が協力して開催されました。国内災害チームの櫻井佑樹が報告します。

研修会で支援経験を共有する参加者の皆さん=2025年9月6日
1年9カ月間の苦労を共有
研修会は9月6日、奥能登地域自立支援協議会・輪島市連絡会が主催、日本障害フォーラム(JDF)とAARが協力して七尾市和倉地区で開催され、同市と金沢市、輪島市、能登町、穴水町の7つの福祉事業所から24人、さらに輪島市と能登町の福祉担当職員2人が参加しました。自分の中に抱え込みがちな苦労や日々の課題を共有することで気持ちを軽くしてもらうこと、また、セルフケアの方法を身に付けてもらうことが目的です。
輪島市中心部の古民家を拠点に、障がい者向けグループホームなどを営業している「輪島カブーレ」は震災後、被災者が少しでも心身を休められるよう、市役所内で運営委託を受けていたカフェスペースを避難所として活用しました。また、運営する温浴施設を1月12日に再開し、地域住民の憩いの場として提供しました。
輪島カブーレで相談支援専門員を務める田端未央子さんは、「地震以降、少しでも早く元の生活に戻れるようにずっと努力してきて、そこに奥能登豪雨も発生した時は、心が折れそうになった。それでも、多くのボランティアの皆さんが活動している姿を見て、前向きな気持ちになりました」と大変な中でも励まされた経験を共有しました。
障害者就労支援事業所を運営する「奥能登WORKSスタジオ」は、能登半島地震で集落のインフラが寸断され地域が孤立したため、備蓄していた食料や水を地域住民に提供しました。その後、住民がヘリコプターで金沢市へ二次避難していく中、事業所では「地域の人がまた戻って来られる場所をつくろう」との思いで、地震前から営業していたカフェスペースの片付けを始めました。家安祐美さんは「地震後は人手不足の中で事業が増え大変だった」と振り返りながらも、「地域の人々や県外から訪れる業者、観光客とのつながりを得られたことは良かった」とプラス面もあったことを強調しました。

セルフケアにについて講義をする寺井さん
支援者自身も支援を受けてよい
研修会の後半では、能登総合病院の臨床心理士・寺井真奈美さんから「体と心のケア」をテーマに、実践的なセルフケア法について話していただきました。寺井さんは、「被災地での支援は、常に気を張っている時間が長く、心のブレーキが効かない。考え方を変えるだけで楽になることあるので、悪い方に考えすぎないようにプラス思考でいることが大事」と語りました。「疲れていることを自覚し、意識的にリセットすることが大切」と話し、実践的なセルフケア法として、リラックスするための呼吸法などを紹介しました。
研修会の後には、石川県の名物「とり野菜みそ鍋」を囲んで交流会を開催。参加者同士が震災後の困難や思いを共有しながら親睦を深めました。参加者の一人は「こんなにリラックスしたのはいつぶりだろう」と笑顔を見せました。
私自身も、東日本大震災の被災者支援に従事していた際に、他団体が主催する「支援者のための支援プログラム」に参加したことがあります。日常の業務から離れることで心を落ち着かせ、改めて元気を得たことを思い出します。
福祉関係者などの「支援者」は、災害時、自分のことを後回しにしがちで、その結果、精神的・肉体的に疲弊してしまうことが少なくありません。周囲の人が「休みましょう」と声をかけること、「支援者も支援されて良い」という考えを広めていくことが大切だと改めて感じました。AARは、今後も能登半島地震被災地での活動を続けてまいります。

櫻井 佑樹SAKURAI Yuki東京事務局
英国の大学院留学後、パキスタンでのNGO勤務を経て2012年AAR入職。ザンビア、タジキスタン駐在の後、東京事務局で国内災害や国内避難民支援、ストップ・キラーロボット・キャンペーンなどを担当



