活動レポート Report

紛争で傷ついた人々の心と体の回復を支援:ウクライナ

2025年11月18日

ロシアによるウクライナ軍事侵攻から3年半以上が経過しましたが、現地では今もなお毎日のように激しい攻撃が続き、毎月数百人の死傷者が出ています。AAR Japan[難民を助ける会]は、地雷や不発弾による被害が特に深刻な地域のひとつであるミコライウ州で支援活動を継続しています。モルドバ・キシナウ事務所代表のハリル・オスマンが、最新の活動について報告します。

リハビリ機器を使用する女性

AARが病院に提供した肩関節の可動域を広げるリハビリ機器

民間人の死傷者14,383人

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、ウクライナでは2025年9月だけで214人の民間人が死亡しました(うち少年3人、少女1人)。また、916人がミサイル、ドローン、不発弾などによる攻撃で負傷しています。2022年2月24日の侵攻開始以降、累計で民間人の死者は14,383人(うち少年396人、少女314人)、負傷者は37,541人に達しています。

ミコライウ州は紛争の直接的な影響を受けている地域のひとつであり、発電所や病院などのインフラがロシア軍の攻撃によって被害を受けています。また、隣接するヘルソン州を中心に、約13万9,000人の国内避難民が避難しており、特に医療体制がひっ迫し、増大するニーズに十分に対応できていません。また最近では、ロシア軍が国内のエネルギー施設への砲撃を強化し、停電が頻発しています。

心理サポートを提供「コミュニティハウス」を開設

開所式の様子

ミコライウ市内にある「コミュニティハウス」の開所式=2025年6月

AARは地雷や不発弾被害者を含む地域の人々の心身の回復を支援するため、現地協力団体The Tenth of Aprilと協働して活動を続けています。2025年6月には、ミコライウ市内に「コミュニティハウス」を開設し、個別またはグループによる心理カウンセリングの提供に加え、公的な社会保障や保護サービスについての情報提供とアクセス支援や、不発弾や地雷に関する安全啓発活動を行っています。

施設は障がい者や高齢者など脆弱な立場の人々も訪問しやすい設計になっており、スタッフ4人が常駐しています。AARや日本の外務省の支援を受けて「The Tenth of April」が運営し、9月末までに456人が同施設でサービスを受けました。

病院へリハビリ機材を供与

また、AARは8月から9月にかけて、ミコライウ市内2カ所の医療施設でも、医療および理学療法用機材を提供する支援を行いました。「ミコライウ州退役軍人病院」には、肩関節を自動で動かし可動域を回復させる機器などリハビリ機材4台を納入。「ミコライウ市立第5病院」には、下肢の筋力回復や循環改善のためのリハビリ用エアロバイクなど8台のほか、椅子やテーブルなどの医療家具を20台ずつ供与しました。

リハビリバイクを使う男性

AARが提供した下肢の筋力回復や循環改善のためのリハビリバイク

納入後は、医療スタッフを対象に、機材の使用方法や最新のリハビリ技術に関する研修も実施。新しい機材の導入によって両病院では負傷者治療の受け入れ能力が拡大し、9月末までに成人41人(女性7人、男性34人)がリハビリサービスを受けています。

「地域の人々に変化が生まれています」

コミュニティハウスでの心理カウンセリングと、病院でのリハビリ支援を受けた人たちの声をご紹介します。

マリーナさん

私はヘルソン州出身のウクライナ語教師です。自宅がロシア軍のミサイル攻撃を受け、やむなく故郷を離れミコライウ市に避難しました。戦争のトラウマに悩まされていましたが、AARが開設したコミュニティハウスで心理カウンセリングを受けるようになり、少しずつ立ち直ることができています。最近では、自ら地域のボランティアとして支援活動に参加しました。AARの取り組みにより、地域の人々の生活に変化が生まれていると感じています。

ヴァレンティンさん

私は開戦初日からウクライナ軍に従軍していましたが、戦闘中に左足首を負傷し、足を上げることができなくなりました。AAR が支援する病院で、最新の機器を使用したリハビリに励んだ結果、体力と可動域を回復しつつあります。

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ハリル・オスマンKhalil Othmanキシナウ事務所代表

シリア出身。2014年以降、難民としてトルコに居住。2015年AARトルコ事務所に入職。トルコ事務所代表を務めた後、2023年からモルドバ・キシナウ事務所駐在代表としてウクライナ難民支援に従事

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