活動レポート Report

「精神的に追い詰められる人も」:来日ウクライナ避難民支援

2022年12月14日

ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって10カ月が経ちます。日本に逃れて来たウクライナ避難民の方々は今、どのような問題に直面し、どんな支援を必要としているのでしょうか。AAR Japan[難民を助ける会]は年明けの2023年1月、日本に滞在する難民・避難民を支え続ける「生活相談プログラム」を開始します。プログラム開始に先立って、自身もウクライナ避難民であり、心理療法士として多くの避難者の相談に応じているオリガ・ジュラベルさんに話を聞きました。日本の皆さんに向けたビデオメッセージもお届けします。

(聞き手:AAR Japan東京事務局 太田 阿利佐)

ウクライナ避難民のオリガ・ジュラベルさんの写真

ウクライナ避難民のオリガ・ジュラベルさん


心理療法士さんに相談が殺到

――ジュラベルさんはウクライナで心理療法士として6年のキャリアがあり、今年3月にお子さんを連れて日本に避難して来ました。現在は支援団体などで避難者のカウンセリング、相談窓口の担当をされているそうですね。

ジュラベルさん ウクライナ人への支援について、日本の方が関心を持って下さることにとても感謝しています。私はある団体で週4日、午後6時からオンラインでカウンセリングをしています。11時ぐらいには終了したいのですが、皆さんたくさん悩みがあって、夜中の1時ぐらいまで話を聞くこともあります。

最近来たばかりの避難民、および以前から日本で暮らす在日ウクライナ人の話を聞いた範囲では、来日したウクライナの避難者は三つのタイプに分けることができると思います。一つ目のグループは、2月24日の軍事侵攻後に、自分や家族の安全のために、とにかくウクライナを出て日本に来た人々です。母親と子ども、高齢者が多く、生活上も精神的にも最も多く支援を必要とするグループです。

二つ目は、避難が目的ではあるものの、以前から海外で暮らすことを考えていた人たちです。若い人が多く、日本語の勉強にも熱心だし、働く準備も整っていて、立ち上がる力があります。初期の支援は必要ですが、後は自力でやっていけると思います。三つ目は、避難というよりビジネスの目的で来日し、本来支援は必要ない人々です。単身者が多く、日本語の勉強には熱心ではありません。

一つ目と二つの目のグループには支援が必要です。特に一つ目のグループには精神的な傷を負った人が多いですね。「住み慣れた家がなくなってしまった」「家族と離れ離れになった」という喪失感や、戦争の恐怖を乗り越えるには精神的なサポートが必要です。中でも一番問題が大きいのは、自分は大丈夫だと思い込んでいる人です。外国生活は何かと疲れるものなのですが、自分の精神的な疲れや心の傷に気が付いていない人は要注意ですね。

今も続いている住宅問題

――来日直後、とにかく住まいを確保するのが第一という段階を過ぎて、生活は落ち着いてきたのではないでしょうか。

ジュラベルさん 実は住まいの問題はまだ続いています。難民として認められると住宅が提供されますが、受け入れ自治体の事情によって、住まいに家具が付いている場合と、付いていない場合があります。最近は家具付きではない住宅の提供も多いようです。家具を買う経済的な余裕がある人はいいのですが、余裕がない人は家具のないがらんとした部屋にいて、「どうして自分は家具がもらえないのか」「どこかに申請したらもらえるのか」「ひょっとしたら自分はまた移動させられるのか」などというストレスを抱えています。

また、特殊な例かもしれませんが、神奈川県のある場所では、自治体が用意してくれたアパートが雨漏りしていて壁にカビが生えていた。「ぜん息の子どもがいるので引っ越したい」と要望すると、担当者から「それなら自分で探してください。家賃も自費になります」と言われたそうです。住宅を提供してもらう際、事前に部屋を確認したり、写真を見たりできないため、入居後にしばしばトラブルが発生しています。

ペットと離れたくない人も

――ウクライナ避難民の受け入れ開始から半年以上が経ち、住まいに関連する問題は解決されたと思っていました。

ジュラベルさん 新たに日本に来る人もいるので、問題が繰り返されています。私が知っている例では、保証人なしで日本に来た人で、希望する地域に住宅が見付からず、数カ月間ホテルに住み続けているケースがあります。なぜ住宅が見付からないかというと、すでにウクライナ避難民が住んでいる公営住宅に入りたいとか、その近くに住みたいと希望する人が多いからです。そのほうが互いに助け合うことができて心強いからです。

ある単身者は、待ちきれずに東京近郊から地方に引っ越して行きました。最初は自然にも恵まれ、リラックスできて良かったようですが、周囲にはウクライナ語やロシア語を話せる人が全くいない。誰ともコミュニケーションがとれなくて、数カ月でうつ病になってしまいました。他にも似た例があり、地方から東京周辺のホテルに戻ってくる人も出てきています。

また、ごく少数ですが、犬や猫などのペットを連れて避難して来た人たちがいます。ペットと一緒に避難するのは移動や検疫などでとても大変ですが、それでも連れて来た。そういう人たちはペットをとても大切にし、家族の一員だと思っています。しかし、日本の住宅の多くではペット飼育は禁止ですよね。自治体の担当者から「シェルターに預けなさい」と言われて困りきっている人、どうしても手放すことができず、こっそり飼っている人もいるようです。

ウクライナ避難民が直面する様々な困難について語るジュラベルさん

ウクライナ避難民が直面する様々な困難について語るジュラベルさん

子どもたちにもっと日本語授業を

――ペットは心の安定をもたらす存在でもあるので、切実な問題ですね。学校や日本語学習に関してはどうでしょうか。

ジュラベルさん ほとんどの場合、小学校に通う子どもたちが日本語の授業を受けるのは、1週間のうちほんの数時間だけです。しかもその時間は、ウクライナ人だけではなく、他の外国人の子どもたちも一緒です。つまり、日本語のレベルが違う子どもたちが同じ授業を受けていて、これはとても充分とは思えません。特にウクライナ人の場合は、急に避難してきたので、親も日本語が分からず、子どもを手助けすることができません。子どもたちは言葉が分からないので、クラスで孤立してしまいます。日本に来たばかりの子どもには、もう少し手厚い日本語の指導が必要だと思います。

また、お年寄り向けの日本語教室もあるといいですね。現在、ウクライナ避難民に提供されている150時間の日本語コースは若い人向けで、テキストの字も小さいし、進み方も速い。ウクライナの年配の方の中には、ローマ字を読めない人もいます。そうした方々は漢字を学ぶ必要はあまりないので、簡単な会話に重点を置いた実用的なコースがあればいいなと思います。

「ハローワークに行っても仕事が見つからない」「日本語の問題で仕事に就けない」と悩む人もたくさんいます。就職のための日本語、例えば面接の時のやり取りとか、自己紹介のやり方などを教えてくれる教室があるといいのではないでしょうか。

私が大きな問題だと感じるのは、今年ちょうどウクライナの高校を卒業して、まだ入学する大学が決まっていない子どもたちです。ウクライナでは17歳で高校を卒業します。高校や大学に在学中であれば、同学年に編入することもできますが、たまたま今年ウクライナの高校を卒業したために、18歳から入学できる日本の大学に入るのは難しい。1年間は何も学べずに過ごすことになり、とてももったいないと思います。

身元保証人とのトラブル多発

――ジュラベルさんが特に解決を急いだ方がいいと考える課題、優先順位が高い課題はなんでしょうか。

ジュラベルさん やはり日本語学習の問題でしょうね。それから、身元保証人についてです。日本人の身元保証人にも、在日ウクライナ人の身元保証人にも問題があり、「支援金を横取りされた」「保証人が自分の知らない間に周囲に募金を求めていた」などのトラブルを聞きます。ウクライナ避難民には、身元保証人には何ができて何ができない、何をやってもいい、何をやってはいけない、という説明をしてもらうといいと思います。身元保証人自身にもよく分かっていない場合があるようです。

ある地域ではこんな問題が起きました。ウクライナ避難民には子連れのお母さんが多い。子どもが病気になると、お母さんは仕事に行けません。東京ならベビーシッターは比較的簡単に見付けることができますが、地域によってはそうとも限らないし、もちろん知人もほとんどいない。「子どもが病気になった時、困っています」と市役所で相談したら、「身元保証人に面倒を見てもらったらどうか」と言われたそうです。身元保証人は遠くに住んでいる場合もあるし、なかなかベビーシッターまでは頼めませんよね。

――ウクライナ避難民支援というより、そもそもひとり親家庭への支援が乏しいのではと思わせる事例ですね。

ジュラベルさん 法律の専門家による相談窓口を求める声もあります。当然のことですが、日本とウクライナでは全く違うルールがたくさんあります。外出する時、どんな書類を持っている必要があるか、子どもは何歳から家で一人で留守番させていいか。ウクライナでは外でタバコを吸うのは問題ないですが、日本はカフェでも歩きながらでもダメですよね。アパートでこっそりペットを飼ったら罰金なのか、国外退去を命令される可能性があるのかとか。日本に来てから私にも経験があるのですが、電車の駅などで見知らぬ男性がいきなり体をぶつけてきたり、怒鳴り声を上げられたりした時、どう対応したらいいのかなど、悩み事はたくさんあります。

――そうした経験は、日本人の女性にもあると思います。とても嫌なものですよね。最後に母親としての立場から、あればいいなと思っている支援はありますか。

ジュラベルさん 日本人の子どもたちと一緒でもいいのですが、ウクライナ人の子どもを土日だけキャンプに連れていったり、子どもが楽しめる公園に連れていったりできれば、子どものストレス解消にもなるし、両親も休めると思います。

日本のみなさんには様々な支援をいただき、またウクライナ避難民の問題に興味を持っていただき、とてもありがたく思っています。改めてお礼を言いたいです。

インタビューの通訳は、日本在住ウクライナ人の方にご協力いただきました

インタビューの通訳は、日本在住ウクライナ人の方にご協力いただきました

ウクライナ避難民をはじめ難民・避難民の方々は、日本で暮らす中でさまざまな問題に直面しています。AAR Japanは、あらゆる国から紛争などで避難された方々を支援するため、新たに「生活相談プログラム」(仮称)を2023年1月から開始いたします。皆さまの温かいお気持ちをどうぞお寄せください。

継続的なご支援のお願い

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太田 阿利佐Ota Arisa東京事務局

毎日新聞記者を経て、2022年6月からAAR東京事務局で広報業務を担当。

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