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米国政府がウクライナへの対人地雷供与を発表:何が問題か

2024年11月22日

男性がしゃがんで地雷の除去作業をしている

地雷を起爆させるトリップワイヤーを探すヘイローの除去要員=ウクライナ首都キーウ近郊ザリーシャ村で2023年4月5日(紺野誠二撮影)

米国の有力紙ワシントン・ポスト紙は11月19日、バイデン大統領がウクライナへの対人地雷の供与を承認した、と報じました1。オースティン国防長官は、ウクライナ側から供与の要望があった、と発言しています2。いったい何が問題なのでしょうか?

対人地雷全面禁止条約(通称:オタワ条約)の違反?

オタワ条約の日本語の正式名称は「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」3です。2024年11月1日時点で164カ国が締約国となっていますが、その中には米国もロシアも中国も含まれていません。そのため、米国やロシアがオタワ条約に違反している、ということにはなりません。

他方、ウクライナはこの条約の締約国であり、遵守する義務があります。条約には様々な義務がありますが、もし仮に対人地雷をアメリカから受け取れば、第一条の一般的な義務第一項(b)の「その他の方法によって取得」に該当すると考えられます。

なお、ウクライナが対人地雷を使用していることは、国際的な調査などによってすでに明らかになっています4。ロシア軍が対人地雷を使用していることは言うまでもない事実であり、これらは認められるべきことではありません。

米国は?

上述のとおり、米国はオタワ条約を締約していません。そのため、オタワ条約違反とはなりませんが、大きく3つの問題があると考えられます。

第1に、ウクライナにおける地雷による死傷者数を増やす可能性が高まります。最新のLandmine Monitor Report 2024によれば、2023年にウクライナでは580人の死傷者が報告されています5。国連高等人権弁務官事務所(UNOHCHR)の報告によれば2022年2月24日のロシアによる軍事侵攻以降、地雷や爆発性残存物により407人が死亡し、944人が負傷しています6。ここに新たにアメリカ製の対人地雷が加われば、民間人の被害が増加する懸念が生じます。

第2に、バイデン政権の地雷政策との矛盾です。米国では政権交代に伴って地雷政策が変更されてきました。最新の政策はバイデン大統領が2022年6月21日に発表したもので7、「地雷の探知または除去に関連する活動に必要な場合、および破壊を目的とする場合を除き、対人地雷を輸出または移譲しないこと」、「朝鮮半島以外のいかなる場所に対しても、オタワ条約で禁止されている活動に従事するよう援助、奨励、誘導しないこと」とされています。今回の対人地雷供与の発表は、わずか2年弱での方針転換を意味します。

第3に、対人地雷の使用は除去活動をますます困難にします。どのような対人地雷を提供するのかは明らかにされていませんが、米国政府高官は「永続的ではない(nonpersistent)」ものと言及しており、バッテリーが切れると作動しなくなるタイプのものだと考えられています。ウクライナではすでに様々な武器、弾薬が使用されていますが、さらに新たな対人地雷が加われば、それは軍事侵攻終結後の復興の大きな阻害要因になります。

ウクライナでどれだけの面積が地雷や不発弾に汚染されているのか、正確には誰も把握できていません(そもそも軍事衝突が現在進行中なので、把握しようがありません)。2023年には174,000㎢に地雷などの汚染のリスクがある、という報告もなされており8、最近では国土の23%(約138,000㎢)にリスクがあるという報告もあります9。174,000㎢は日本の本州の面積の78%にあたります。

現時点では、いつ対人地雷が供与されるのか、何が含まれるのかなどの詳細は不明である、とウクライナの現地紙は伝えています10

米国によるウクライナへの対人地雷の供与は表明がなされたものの、現時点では、すでに供与されたのかも含め、事実関係では不明なところが多い状況です。AARは今後も事態を注視しつつ、地雷のない世界の実現のために、地雷・不発弾対策の活動を続けていきます。

※1 The Washington Post, “Biden approves antipersonnel mines for Ukraine, undoing his own policy The move comes as Russia’s advances in eastern Ukraine threaten to overwhelm front-line defenses.”, November 19th, 2024

※2 U.S. Department of Defense, “TRANSCRIPT Secretary of Defense Lloyd J. Austin III Holds an On-Camera, On-the-Record Press Briefing in Laos”, November 20, 2024

※3 下記のURLから入手可能。 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H11-0029.pdf

※4 Human Rights Watch, “ Ukraine: Banned Landmines Harm Civilians Ukraine Should Investigate Forces’ Apparent Use; Russian Use Continues”, January 31,2023

※5 International Campaign to Ban Landmines, “Landmine Monitor Report 2024”, Page 43

※6 UNITED NATIONS HUMAN RIGHTS OFFICE OF THE HIGH COMMISIONER, “Ukraine: Protection of civilians in armed conflict October 2024 update, November 15th, 2024

※7 THE WHITE HOUSE, “FACT SHEET: Changes to U.S. Anti-Personnel Landmine Policy”, JUNE 2021, 2022

※8 “ACAPS Thematic Report: Ukraine – Humanitarian implications of mine contamination (24 January 2024)” January 24, 2024

※9 UNDP, “In Ukraine, tackling mine action from all sides to make land safe again”, October 14, 2024

※10 Katie Livingstone, KYIV POST, “EXCLUSIVE Landmines Ukraine US ANALYSIS: ‘Cannot Be Treated Seriously Yet’ – Expert on New US Provision of Antipersonnel Mines to Ukraine”, November 21, 2024

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。

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