
メヘバ難民居住地に40年間住み続ける一家=2018年9月
メヘバには誰が暮らしているのか
もし、強制的に住むところを追われてしまったら私たちはどのように生きていけばいいのでしょうか。難民や国内避難民、あるいは亡命希望者といわれる人々は世界的に増加し続けています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、アフリカ地域で、国内外の紛争に巻き込まれて強制的に住むところを追われてしまった人々は3,000万人にのぼります。そのような人々の多くは周辺国の難民キャンプや難民居住地で一定の保護を受けながら暮らしています。
平和で人道的な国、民主主義が定着した国として国際社会に認められてきたザンビアが初めて難民を受け入れたのは1940年代のことです。それ以降、ザンビアは長きにわたって難民の受け入れ国となってきました。1971年に設立されたメヘバ難民居住地(以下、メヘバ)はアフリカにおいて最も古い居住地のひとつです。

以下の表には、2023年現在、メヘバで暮らす難民・元難民、亡命希望者の、出身国ごとの人数が示されています。最も多いのはコンゴ民主共和国からの難民で、次がアンゴラ共和国の元難民です。元難民とは、自国での紛争が終結したことを受け、庇護国によって難民資格が停止され自国への帰還が認められた人々を指します。元難民として認定されたアンゴラ人約6,500人が帰還を拒否して、メヘバに残留していることが分かります。
表 2023年時におけるメヘバ難民居住地の人口[1]
出身国 | 難民数 | 元難民・ 亡命希望者数 |
総人数 |
コンゴ民主 | 23,710 | 0 | 23,710 |
アンゴラ | – | 6,503 | 6,503 |
ブルンジ | 3,715 | 0 | 3,715 |
ルワンダ | 423 | 3,161 | 3,584 |
ソマリア | 1,041 | 0 | 1,041 |
その他 | 98 | 0 | 98 |
計 | 28,987 | 9,664 | 38,651 |
出典: (Kalumbila District, One Meheba Local Area Plan 2023)
アンゴラにおける紛争が2002年に終結したことを受け、ザンビア政府はアンゴラへの安全な帰還を進めつつ2012年に難民法上の終了条項を実施しました。ザンビアに避難していたアンゴラ人の難民資格は停止され、元難民という立場に変わりました。また、2013年にはルワンダ人難民に対しても終了条項が宣言され、難民資格が停止されました。そして2014年、ザンビア政府は、本国への帰還を希望せずザンビアに留まったアンゴラ人、ルワンダ人 に対して地域統合政策の枠組みの中で、滞在許可と、居住と農業生産を行うことのできる区画(1世帯当たり5ヘクタールもしくは10ヘクタール)を、ほぼ無料で付与する取り組みを開始しました。

井戸設置の支援に加え、自分たちで維持・管理できるよう修理の研修も実施=2018年3月
地域統合政策
ザンビア政府は難民に対し1964年の独立以来一貫して受入れ政策をとってきました。1969年に難民条約に加入し、1970年に難民(管理)法を制定しました。また、短期的な人道援助のみではなく中長期的な開発援助の枠組みの中で難民問題を捉えようとする国際社会の潮流に併せ、ザンビア政府はザンビア・イニシアティブ(Zambia Initiative: ZI)を実施し、マルチセクター型の農村開発事業に取り組みました[2]。ZIは日本政府をはじめ先進諸国政府およびUNHCRからの支援によりザンビアの難民居住地で2003年から2009年の間に実施され、農業、畜産、保健医療、教育等のセクターごとに開発事業が進められることになりました。
ZIで得た知識、経験、教訓を活かし2014年にザンビア政府はUNHCR主導のもと戦略的フレームワーク文書を策定し、社会統合を開発型援助とリンクさせることで定住・統合を促進させる地域統合政策(Local Integration Policy)を実施してきました。UNHCRは難民問題の恒常的な解決策として、自主帰還、庇護国における社会統合、第三国定住の3つを挙げており、ザンビア政府が進める地域統合政策は庇護国における社会統合にあたります。
難民対策としての地域統合政策は、難民が最初に庇護を受けた国に定住して生活を再建することと定義されています[3]。ザンビア政府が元難民とホストコミュニティの法的・経済的・文化的統合の地域統合政策を進めてきたのは、経済的自立や移動の自由などの自立性を尊重することで元難民の社会参加を実現し、その結果として受け入れ国としての負担が軽減されると考えてきたためです[4]。

AARの栽培研修で田畑を耕す人々=2021年8月
その一方で、開発型援助とリンクしたザンビアの地域統合には問題もありました。統合政策では元難民に対して滞在許可、区画付与、住宅資材提供などが謳われましたが、実際に元難民たちを待っていたのは厳しい現実でした。メヘバは地域統合により難民が住むエリア(ブロックA-D)と、元難民とザンビア人に区画が付与される統合エリア(ブロックE-H)の2つに分割され、元難民が区画付与を希望する場合は、住み慣れた居住地から統合エリアに移動を余儀なくされる場合がありました。

メヘバ難民居住地の区画
また、区画は付与されたものの土地は原野そのものであり、政府や国際社会から農工具や住宅資材等が支給されることはほぼなく、自力で住居を設置し、農地として整備していく作業を行わなければなりませんでした。地域統合を開発型援助とリンクさせたことで資金不足や開発アクター中心の運営を招き、援助の現場においてこのような問題を引き起こしたとの否定的な見解を生み出しています[5]。
問題を抱えながらも難民・元難民の自立性を尊重するというザンビア政府の方針はその後も継続され、着実な変化をもたらしてきました。2017年には難民法(The Refugee Act, 2017)が改正され難民に対する法的枠組みがより明確化され、2024年にはザンビア初の難民政策(The National Refugee Policy)が発表されて権利や保護などについての行政上の整備が一歩進みました。これらにより、ザンビアの地域統合政策は国連や世界銀行などの国際機関からも再び注目されるようになりました。
目指す姿としてのメヘバ
国際社会から忘れられかけていたメヘバの難民・元難民は、半世紀もの間、厳しい環境にも関わらず自律的に生活を営んできました。彼らは土地を耕して家族を守り、子どもを学校に通わせています。農業で生計を立て、コミュニティのつながりを大切にしながら他者と助け合って生活しています。難民も元難民も厳しい状況の中で世代を超えて自らの力で暮らし続けているのです。
メヘバでは、現在は生産量が減ってしまったものの「メヘバ米」というブランド米まで存在していました。私たち駐在員も食べていますが驚くほど美味しいお米です。強制的に住居を追われながらもいくつもの苦難を乗り越えたサバイバーとして自立したメヘバの難民・元難民たちはもはや「社会の負担」とは言えないのではないでしょうか。この難民・元難民のレジリエンス(強靭性)に対してあと少し国際社会が手を貸し、背中を押すことができれば、メヘバ住民は社会統合が目指す本来の姿、つまり地域社会への貢献者となって新しい価値を創造していくことでしょう。

メヘバ米
メヘバは、難民居住地としては成熟した形と言えます。アフリカにはスーダン、ウガンダ、ケニア、エチオピアなどに大規模な難民キャンプや居住地が存在しますが、それらもメヘバのように長く存在することになるかもしれません。時の経過とともに難民に対する国際社会の関心が薄れ支援が遠のいていった時に、メヘバの成功例を見習おうと言ってもらえるよう、AARはメヘバでの支援活動を続けてまいります。
AARは現在、ザンビアでの難民支援を取り上げた夏募金キャンペーンを実施しています。ぜひ、特設ページをご覧ください。
新たな人生を「学び」で切り拓く|2025年 夏募金キャンペーン|AAR Japan[難民を助ける会]難民は、支援を待つだけの無力な存在ではありません。自ら未来を切り拓こうとする強い意志があります。AARは、人々が新たな一歩を踏み出すための支援を行っています。
[1] Kalumbila District (2023), One Meheba Local Area Plan (2024-2028), Table 2.1: Population of Refugees and Other People of Concern in Meheba – 2023, p.20.
[2] 村尾るみこ(2016)「ザンビアにおける元難民の社会統合の現状」『21世紀社会デザイン研究2016』No.15 (pp. 79-85 )、立教大学学術リポジトリ、pp.81。
[3] 村尾るみこ(2024)「ザンビア農村部における元難民のレジリエンス」湖中真哉編『レジリエンスは動詞である アフリカ遊牧社会からの関係/脈絡論アプローチ』(pp. 407-437)京都大学学術出版会, p. 410。
[4] Kambela, Lweendo(2020) Can Zambia’s local integration strategy be a model for durable solutions to refugee crisis in Africa?, International Journal of Latest Research in Humanities and Social Science (IJLRHSS) Volume 03 – Issue 02, 2020 www.ijlrhss.com || PP. 20-27, “Another study by Meyer (2006) reveals that self-reliance that results from flexible host country policies neutralizes the view that that refugees are ‘burdens’ to host countries.”(pp.22-23).
[5] 村尾るみこ(2016)「ザンビアにおける元難民の社会統合の現状」『21世紀社会デザイン研究2016』No.15 (pp. 79-85 )、立教大学学術リポジトリ、pp.85。または、
杉本明子(2005)「ザンビア・イニシアティブ 難民の庇護国社会への統合と開発援助の可能性」『アフリカリポート』No.40 (pp.50-56), アジア経済研究所、p.54。

山下 秀一YAMASHITA Shuichi メヘバ事務所 駐在代表
在南アフリカ共和国日本国大使館で草の根外部委嘱員として従事。その後、国連開発計画の平和構築分野でコソボ共和国およびガーナ共和国で働く。東京外国語大学でアフリカにおける平和活動について博士号取得。2024年7月より現職。