ロシアによるウクライナ軍事侵攻が続く中、国内に残る障がい者と家族が置かれた状況は厳しさを増しています。AAR Japan[難民を助ける会]が資金援助を続けるウクライナ中部ヴィンニツァ州に拠点を置く知的障がい者の親の会オープン・ハーツ(Open Hearts)の最近の様子を、AARキシナウ事務所(モルドバ)の東マリ子が報告します。
施設の増改築とレスパイト・ケアを支援
オープン・ハーツの活動施設を9月下旬に訪ねると、知的障がいのある子どもたちがゲームを楽しんでいました。ここで実施されているのは、「レスパイト・ケア」(障がい者と介護者が一時的に離れて過ごすことで「ひと休み」する支援)と呼ばれるプログラム。1グループあたり8人の障がい児が12日間滞在し、ソーシャルワーカーのケアを受けながら、木工細工や料理、ダンス、屋外活動など様々なアクティビティに取り組みます。
介護者(多くの場合は母親)はその間に介護を離れて休息を取ったり、普段はできない用事を済ませたりします。障がいのある10歳の娘を持つヴィクトリアさんは、「オープン・ハーツのレスパイト・ケアに娘を預けて、普段なかなか作れない自分の時間を持つことができました。娘も同年齢の仲間と一緒で楽しかったようです」と笑顔で話しました。
AARは同団体が運営する施設の2階部分に6つの居室と倉庫、会議スペースを整備するのを支援し、国内避難民や障がい者を最大74人まで受け入れることが可能になりました。居室にはレスパイト・ケアの参加者が滞在し、会議スペースは障がい児のアクティビティや保護者向けのセミナーなどに活用されています。
AARとオープン・ハーツの協働事業はヴィンニツァ州政府からも高い評価を得ています。ナターリャ・ザボロトナ第一副知事は「多くの人道支援団体がヴィンニツァ州を支援してくれていますが、障がい者支援はほとんどありません。私たちは日本からの支援に感謝しています」と話してくれました。
精神科医によるカウンセリング実施
AARはヴィンニツァ州内の3つの障がい者施設に精神科医を派遣し、障がい者のカウンセリングを実施しています。このうち2つの施設は州都ヴィンニツァ市から遠く、車で片道1時間半から2時間以上かかります。精神科医のアンドリー医師は週に3日、1日に1施設を訪問し、残りの2日はオンラインでカウンセリングを行っています。
しかし、普通に会話ができる人ばかりではなく、言葉によるコミュニケーションが難しい場合もあります。また、施設の生活で孤独を感じ、心を閉ざす人もいると言います。カウンセリングの難しさを尋ねると、アンドリー医師は「みんな話したくないわけではなく、心を開く準備ができていないのです。そのような場合は、じっくり時間をかけて話を聞きます」。心理状態を汲み取るために、相手の表情や動作をよく観察するのも大切です。
施設の職員は「アンドリー先生が来てくださって本当に助かっています。今後もずっと来てほしい」と口を揃えます。これには、障がい者や高齢者が健康な暮らしを送るためにカウンセリングが欠かせない一方で、ウクライナでは医師が十分な報酬を得られていないという実情があります。遠隔地まで定期的に診察に出向いてくれる医師を確保するのは容易ではなく、AARの資金援助はこうした面でも役立っています。
AAR Japanは昨年2月にウクライナ人道危機が始まって間もなく、難民・国内避難民支援を開始したのに加え、最も弱い立場に置かれたウクライナ国内の知的・身体障がい者団体へのサポートを続けています。AARのウクライナ人道支援ご協力を重ねてお願い申し上げます。
*日本外務省の海外安全情報(2023年10月現在)では、ウクライナは「レベル4:退避勧告」に該当しますが、AAR Japanは独自の情報収集に基づき、安全を確保して短期間入国することは可能と判断しました。AARは今後も万全の安全対策を講じながら、ウクライナ人道支援に取り組んでまいります。
東マリ子HIGASHI Marikoキシナウ事務所(モルドバ)
大学でロシア語を専攻。商社や在ロシア日本大使館勤務の後、2021年にAAR入職。旧ソ連タジキスタン駐在を経て、2023年1月からモルドバ駐在員としてウクライナ事業を担当。