活動レポート Report

難民1億1,400万人の危機感を共有:難民フォーラムに参加

2023年12月19日

2023年はロシアのウクライナ軍事侵攻が続く中、パレスチナ人道危機や世界各地の大災害など緊急事態が相次ぎました。他方でシリア、スーダン、ミャンマーなどの危機的状況がなくなったわけではなく、世界の難民・国内避難民は1億1,400万人に上ります。難民問題への対応を論議する「グローバル難民フォーラム(Global Refugee Forum:GRF)」が12月13~15日、スイスのジュネーブで開催され、AAR Japan[難民を助ける会]から理事長の堀江良彰ら2人が参加しました。東京事務局の野際紗綾子が報告します。

会議の様子。壇上で話す人々

難民支援の事例を共有した「難民フォーラム」会合=ジュネーブで2023年12月15日

難民支援の好事例を報告

2016年にトルコ・イスタンブールで世界人道サミットが開催され、2018年12月に国連総会で「難民に関するグローバル・コンパクト」が採択されて、「国際社会全体で取り組む難民支援」の重要性が確認されました。それを受けて第一回「グローバル難民フォーラム」が2019年に開かれ、今回は二回目の開催が実現しました。

4,000人近くの国連・政府機関、民間企業、NGO、難民当事者団体(Refugee-lead Organizations)などが一堂に会し、(1)難民受け入れ国の負担軽減、(2)難民の自立促進、(3)第三国定住の拡大、(4)安全かつ尊厳ある環境整備の4つの大きなテーマについて、資金援助から技術支援、政策など多様な難民支援の取り組みや好事例を共有しました。そのうえで、難民および難民を受け入れる地域の人々とともに歩むインクルーシブ(包摂的)な社会の実現を目指す論議が進められ、日本はフランス、コロンビア、ヨルダン、ウガンダとともに共同議長国を務めました。

緒方貞子さんの言葉とともに

青色をしたこいのbのりが飾られている

メイン会場入り口を彩る青い鯉のぼり。来日したミャンマー難民のデザイナー、ザニー氏の作品

日本初・女性初の国連難民高等弁務官として、1989年から約10年間、世界の難民のために尽力した故・緒方貞子さんは2000年12月、退任時のスピーチで、「(人々の命を守る)緊急援助と長期的な開発援助の間の空白期間」についての問題を提起しました。それから20年以上経ちましたが、AARの支援活動の現場では、その問題は今も続いているどころか深刻さを増すばかりです。また、アフガニスタンやミャンマー、シリアやスーダンなど紛争が長期化する地域にあって、いつか訪れる平和に資する地域の力「レジリエンス」を高める支援も求められています。

日本政府は人道支援(Humanitarian)・開発(Development)・平和(Peace)の連携(Nexus)の英語の頭文字をとった「HDPネクサス」を今回の宣言(プレッジ)に掲げました。具体的には、人道支援と並行して、難民の自立、受け入れ国の負担軽減のための開発協力、難民を生む根本的な原因である紛争の解決・予防のための平和構築を行うものです。AARは緊急人道支援を実施するジャパン・プラットフォーム(JPF)の加盟NGOとして、それに呼応する形でHDPネクサス宣言に団体登録しました(11月末)。

難民自身が中心となる活動を

会議でもうひとつ大切なポイントになったのが、難民当事者が活動の企画段階から参加し、ともに新しい社会を築いていくことです。もともと「私たちを抜きにして私たちのことを決めないで ”Nothing about us, without us”)」というキャッチフレーズは、人権条約のひとつ「障害者権利条約」の策定時に、約半数を占めた障がい当事者によって提唱され、多くの支持を得てきました。それが今、難民支援においても掲げられていることは重要な意味を持ちます。

私たちは会場で、アフガニスタンの障がい当事者リーダーで、難民支援に携わるザザイさんにお会いしました。ザザイさんは「ダスキンリーダーシッププログラム」で来日した経験があり、アフガニスタン各地で取り組む国内避難民、生活困窮者、女性や障がい者への物資配付や職業訓練などの支援活動について、日本語で説明してくれました。「私たちを抜きにして私たちのことを決めないで」という理念を、困難な状況下でまさに実践しているザザイさんの自信に満ちた姿に感銘を受けました。

記念写真

ザザイさん(中央)とAARの野際

私たち一人ひとりにできること

世界の難民・国内避難民が1億1,400万人にも上る現状にあって、一人ひとりが置かれた状況も将来への夢も異なります。誰もが安心して教育を受け、就労できる世界を実現するために、私たち一人ひとりにできることは何でしょうか。

今回の難民フォーラムで強く推奨されているのが「社会全体で取り組む難民支援のアプローチ(Whole of Society Approach)」です。「社会全体」とは、政府や国連機関、民間企業、NGOなどに加えて、社会を構成する皆さん一人ひとりが含まれています。すべての人に優しいインクルーシブな世界の実現を目指して、皆さんと一緒に難民支援に取り組んでいければと願っています。AARの難民支援へのご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

野際 紗綾子NOGIWA Sayako東京事務局

外資系金融機関を経て2005年 AAR入職。2008年ミャンマーサイクロン、2009年スマトラ沖地震、2010年パキスタン洪水、2011年東日本大震災、2020年九州南部豪雨などの緊急支援に従事。現在は海外支援事業やアドボカシー事業マネージャーを務める。日本UNHCR・NGO評議会(J-FUN)共同代表、障害分野 NGO 連絡会(JANNET)幹事、日本障害者協議会(JD)理事。

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