活動レポート Report

帰還民を爆発物被害から守る取り組み:アフガニスタン

2024年7月2日

パキスタン政府が2023年10月に決定した「不法滞在外国人帰還計画」によって、同国に避難していた多くのアフガニスタン人が祖国への帰還を余儀なくされています。AAR Japan[難民を助ける会]は、帰国したばかりの人たちに、紛争後もアフガニスタン各地に残されたままの地雷や不発弾などの爆発物の危険から身を守るための啓発活動を行っています。東京事務局の鶴岡友美が報告します。

物資を積み下ろす大勢の人々

パキスタンから帰還した人々=アフガニスタンとパキスタンの国境の町、ナンガハール州トールハム検問所近郊で2023年11月

パキスタンから突然の強制送還

「パキスタンの警察が来て、すぐにアフガニスタンに戻るよう強要されました。荷物をまとめる時間すら与られず、私たちは裸足で着の身着のまま出国しなければなりませんでした」「住む家もなく、仕事も見つからなければ、このままホームレスになってしまうかもしれないと不安です」。

昨年12月、首都カブール近郊にある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の帰還民支援センターに到着した人々は、追い立てられるようにパキスタンを出国した経緯や、これからの生活の不安を訴えました。同センターは、難民として正式に登録されている帰還民に対して、当面の生活資金、医療サービスなどの支援を提供するための施設です。

1970年代後半から40年以上にわたり情勢不安が続くアフガニスタン。隣国パキスタンには100万人を超えるアフガニスタン難民が不法滞在していると言われ、パキスタン政府は昨年10月に不法滞在外国人帰還計画を打ち出して、すでに60万人以上が強制送還されています。

帰還した人々は、ゼロから生活基盤をつくらなければならず、経済的にも精神的にもさまざまな困難に直面しています。さらに、故郷に戻ったり、新天地に移って新生活を始めたりする際には、紛争後に残された地雷や不発弾などの爆発物の事故に遭う危険にもさらされます。AARは2003年以降、地雷をはじめとする爆発物の危険から身を守る「リスク回避教育」に取り組んできた実績があります。

昨年秋以降続々とアフガニスタンに到着する帰還民を対象に一刻も早い段階で爆発物リスクに関する注意喚起を行う必要があると判断したアフガニスタン政府の要請にもとづき、今年1月に同センターでの啓発活動を開始しました。

AARスタッフと地雷の危険性の説明を聞く人々

首都カブールの帰還民支援センターで地雷などの危険を伝えるAARカブール事務所職員 =2024年2月

同センターには爆発物リスク回避教育用のテントがあり、実物の地雷や、不発弾などの爆発物に関するポスターを展示しているほか、土を敷いて地雷原を再現しています。AARカブール事務所の職員が、近付いてはいけない印や見付けた場合の対処法などを丁寧に説明しており、多い時には1日に15回以上の講習を実施し、これまでに約1万6,000人が受講しています(6月末現在)。

テントの中に土が敷かれ地雷原を再現。それを説明するAAR職員と参加者の女性たち

AARがセンター内に設けた爆発物リスク回避教育の展示。地雷や不発弾などの爆発物が埋まっている状況を再現

国連事務次長がAARの活動を視察

ラクロワ国連事務次長(平和維持活動担当)が5月下旬、当帰還民支援センターを訪れ、AARの爆発物リスク回避教育を視察しました。事務次長は「この帰還民支援センターでは、(パキスタンからなどの)アフガニスタン帰還民に対して様々なサポートがなされていましたが、その中も特筆すべきだったのは日本政府からの支援を受けた日本のNGO、AAR Japanによる地雷・爆発物リスク啓発活動の様子でした。経験を積んだアフガニスタンの男女のスタッフが素晴らしいサービスを提供していました」 と言及し、当会の取り組みを高く評価しました。

当時の動画はこちら(”AFGHANISTAN / LACROIX VISIT”(4分):  AAR Japanの活動は01:11-3:00の部分に収録されています。)

アフガニスタンには長年の紛争が残した何十万トンもの「爆発性戦争残存物」が存在します。昨年だけでも800人以上が死傷し、その多くは子どもです。帰還民が帰国後すぐに回避教育を受けることはとても効果的で重要です。帰還民の中には、地雷などの爆発物と縁のないパキスタンの都市部に暮らしていた人も多く、こうした危険性について何も知らないことも珍しくありません。特に子どもたちは、危険な爆発物そのものや、安全な行動をとるための基本的な知識を身につけておらず、アフガニスタンに戻った時に大きな危険にさらされます。

「地雷などの爆発物についてのAARの講習はとても役に立ちました。危険物を見付けた時はどう対応すればいいか分かりました」。長年避難していたパキスタンから幼い子どもを連れて帰還したハリマさん(40歳)は、こう話しました。

パキスタンで暮らしていたアフガニスタン難民は、その立場の弱さゆえに苦しい生活を強いられてきました。そして 今、多くの国民が食料不足に苦しむ祖国に強制的に帰還させられています。教育や就労、女性の権利に関するさまざまな制限も、帰還後の生活をいっそう困難なものにしています。

AARは爆発物リスク回避教育に加え、帰還民への食料支援の事業を実施しています。引き続き、アフガニスタンでのAARの人道支援活動へのご協力をお願い申し上げます。

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鶴岡 友美TSURUOKA YumiAAR東京事務局支援事業部

企業勤務を経て青年海外協力隊(ザンビア村落開発普及員)に参加。国際開発・公衆衛生の分野で修士号を取得後、政府系および民間の途上国開発援助団体に勤務し、エチオピア駐在、東京での事業運営などを経験。2019年AAR入職、アフガニスタン事業担当。

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