活動レポート Report

忘れられた危機下の人々は今:シリア紛争発生13年

2024年3月4日

シリア紛争が2011年3月に勃発してから13年が経ちます。世界各地で次々と起こる人道危機に注目が集まる中、シリア危機がメディアに取り上げられる機会は減少しています。しかし、シリアの人々を取り巻く困難な状況は依然として続いています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2023年12月時点でシリアから国外に逃れた人々は約512万人、シリア国内で人道支援を必要とする人々は約1,530万人にのぼります。これは日本の人口の約1/6に相当し、シリア危機が過去のものではなく、解決されないまま現在も続く人道危機であることを物語っています。

AAR Japan[難民を助ける会]は、2012年にトルコへ逃れたシリア難民への支援を開始し、これまでに食料や生活必需品の配付、障がい者支援、教育支援、コミュニティセンターの運営などさまざまな活動を行ってきました。2014年にはシリア国内でも避難民への支援を始め、現地協力団体と連携して食料配付や地雷・不発弾対策などを行ってきました。現在は、食料配付と農業支援を行っています。

パンは心と身体を満たす日々の糧

テントの中にいる男性がうつむいている

過酷な環境から心に不調をきたしたビラルさん

ビラルさん(50代、男性)には5人の子どもがおり、そのうち2人の娘には知的障がいがあります。ビラルさんは家族の生活を支えるため、レバノンに出稼ぎに出て大工として働いていました。蓄えを少しずつ増やし、ようやく故郷に家を建てることができたものの、地域全体が2017年に爆撃の被害を受け、ビラルさんたちの家も破壊されてしまいました。

ビラルさん一家は現在、シリア国内にある避難民キャンプで暮らしています。不自由な生活を強いられるキャンプでの暮らしのストレスに加え、仕事を見つけることができず、家族の長として家族を支えられないという心労から、ビラルさんは心に不調をきたしてしまいました。

女の子が二人、男の子が一人、AARが配付したパンを前に座っている。

パンの配付を喜ぶ子どもたち

「何より辛いのは、知的障がいのある2人の娘が、私たちが直面している苦難を理解できないということです。娘たちはお腹が空くと我慢できず、大きな声で泣き叫びます。その悲鳴を聞くと涙が出ます」とビラルさんは険しい表情で話します。

AARは2014年からシリア国内で小麦粉や食用油などの食料を配付する支援を実施しており、2022年からは避難民キャンプの約2,000世帯(約1万人)にパンを届けています。現地協力団体を通じてトルコから小麦を運び、契約業者が製造したパンを配付しています。ビラルさん一家も配付対象となっており、家族全員分のパンを受け取っています。

「毎日パンを配付してもらえることは本当にありがたいです。子どもたちがパンを手にして嬉しそうに笑う姿を見ると、パンは日々の糧として空腹を満たすだけでなく、心にも栄養を与えてくれているのだと実感します」。

戦場に蒔く希望の種

好天のもと、畑の作物をかごに入れていく男性。

18歳のときから土地を耕し守ってきたアブデルさん

アブデルさん(48歳、男性)は18歳の時に年老いた父親から肥沃な土地を受け継ぎました。それ以来、家族とともに農地を耕して穀物や野菜などを栽培し、農業で生計を立ててきました。

しかし、2012年にアブデルさんたちが暮らす地域一帯が紛争によって爆撃を受け、家屋や農地が被害にあいました。電力設備も破壊され、地域の電気の供給が制限されるようになり、停電が頻繁に起こるようになりました。アブデルさんは土地の一部を売却した資金で太陽光発電システムを導入しましたが、以前のように十分な作物を収穫できなくなりました。作物を販売することで得ていた収入も減り、子どもたちには栄養不良の症状が見られるようになりました。

AARはアブデルさんのような小規模農家を対象として、収量向上のための農業支援を実施しています。種子や肥料、農薬を提供するとともに、栽培方法や害虫駆除、収穫後の保存方法などについて専門家による研修を行っています。

畑の前で、収穫したきゅうりを6本両手で掴むアブデルさん

アブデルさんが収穫したキュウリ

AARから種子や肥料を受け取ったアブデルさんは、「世界的なインフレの影響を受けてシリアでも農業に必要な資材の価格が高騰しているので、支援してもらえて本当に助かります」と喜んでくれました。「収穫を増やすための専門的な研修やコンサルティングも受けることができ、おかげで今年は収穫を増やすことができました」。

「今年は、今まで栽培してきた中でも一番良質なキュウリを収穫することができました。大きな市場に出荷して、以前よりは安定した収入を得られるようになりました。私が農地に蒔いているのは野菜の種ですが、希望の種でもあります。今、私は子どもたちに『より良い未来』という希望を与えることができています」。

私たちを忘れないで

AARの支援を受ける人々に話を聞くと、こんなメッセージを受け取ることがあります。「どうか私たちを忘れないでほしい」。難民となった人々に手を差し伸べられるのは、同じ世界で同じ時代を生きる私たちしかいません。AARは、過酷な状況の中を必死で生きる人々の支援を今後も続けてまいります。

AARがトルコで行う現地NGO(CBO)支援について詳しくはこちらから
トルコ地震で被災したシリア難民への支援について詳しくはこちらから

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