活動レポート Report

障がい児教育担う教員を育てる:タジキスタン

2024年5月20日

中央アジアのタジキスタンは、「世界の屋根」と呼ばれるパミール高原を擁する世界一平均標高の高い山岳国家です。周辺国と比べて社会開発が遅れており、特に障がい者や女性の社会進出は進んでいません。AAR Japan[難民を助ける会]は2014年以降、障がいの有無と関係なく、すべての子どもが個々の特性やニーズに応じて学ぶことができる「インクルーシブ教育」の推進に取り組んでいます。タジキスタン事務所の長野峻典が報告します。

手話を学ぶ人たち

聾学校の教員から手話や聴覚障害者の教授法について学ぶ研修参加者たち=2024年4月

教員養成大学で実地研修

「AARの研修を受けるまで、障がい者の教育について考えたこともありませんでした。しかし、実際に障がい児と触れ合う中で、彼らも学ぼうとしていること、学校に通いたいと思っていることを知りました」。そう話すのは、首都ドゥシャンベ西郊にあるヒッサール教員養成専門学校の教員、バフティヨールさんです。

教壇に立つ男性

ヒッサール教員養成専門学校で授業をするバフティヨールさん(前方)

インクルーシブ教育の推進には、児童・生徒と直接関わる教員が理論をしっかり理解し、実践することが重要ですが、ある教員養成学校でAARが実施したアンケート調査では、障がいについて学んだことのある学生は約半数、インクルーシブ教育については2割ほどしかいませんでした。教員を目指す学生ですら、障がい児教育を学ぶ機会がほとんどないことが推察されます。AARは2020年から首都ドゥシャンベとヒッサール市、トゥスンゾダ市などの教員養成大学や専門学校で、それぞれの教員、および教員を目指す学生を対象として、インクルーシブ教育に関する理解を促進する活動に取り組んでいます。

プログラムで、学生を指導する教員に「障がい理解」「インクルーシブ教育」「授業のユニバーサルデザインと合理的配慮」などの研修を実施し、さまざまな障がいの特性やそれに応じた配慮の手法、授業の進め方を学びます。自閉症の子どもたちを支援する団体、インクルーシブ教育を実践する公立校での実地研修もあります。そして、研修を受けた教員が指導実例教本を作成し、授業を通じて学生に伝えるというシステムです。

教室の真ん中で、机に座る人たちに話をする女性

インクルーシブ教育を実践する公立校で実践例を学ぶ教員たち

前出のバフティヨールさんは、「研修後は街を歩いても障がいのある人たちに目が向くようになりました。タジキスタンでは多くの障がい者が路上で物乞いをしています。障がいが原因で学校に行けず、十分な教育を受けていないので仕事にも就けないという悪循環が起きているのです」と話し、「将来教員になる学生たちにインクルーシブ教育についてしっかり教えることで、問題の改善に貢献したいと思います」と意欲を見せます。

教壇に立つ男性

脚に障がいがあるラシュト教員養成大学のサロヒディンさん(左)

同じく研修を受けたラシュト教員養成大学の教員、サロヒディンさんは自身も生まれつき脚に障がいがあります。「研修では障がいや特別支援教育・インクルーシブ教育について詳しく学ぶことができました。タジキスタンで特別支援教育やインクルーシブ教育を推進するのは容易ではありませんが、自分にできることを続けて、障がいの有無に関係なく、すべての子どもが教育を受けられる環境を実現できれば嬉しいですね」と話します。

学校のバリアフリー化を促進

タジキスタンでは、家庭でも学校でも床に穴を空けただけのトイレが一般的で、便器がありません。これも障がい者の就学の大きな障壁になっています。そこで、AARは対象校のバリアフリー化やバリアフリートイレの建設を進めています。
ラシュト教員養成大学の学生、ドゥストモロドさんは「私には身体障がいがありますが、校舎がバリアフリー化され、本当に助かっています。スロープやトイレの手すりがあることは、多くの人にとって小さなことに感じるかも知れませんが、私たちにとっては大きな違いがあるのです」と話します。

机に座る若い男性たち

授業に参加するドゥストモロドさん(前左から2番目)

英語教員を目指すドゥストモロドさんは、「夢は米国に留学すること。そして、障がいがあっても誰もが一緒に学び、遊べるような場所を作りたいと考えています。私自身、身体が不自由なため、幼い頃に友だちと一緒に出かけたり遊んだりできなくて、寂しく感じた経験があります。障がいがあっても平等にチャンスを得て、楽しく生きられる社会にしていきたいと思っています」。

AARはタジキスタンで2014年から10年間、インクルーシブ教育推進事業を実施してきました。今後はこれまでの活動を通じて得られた知見を生かし、シンポジウム開催や政策提言も行う予定です。AARの障がい児教育支援へのご理解をよろしくお願い申し上げます。

※この活動は外務省日本NGO無償資金協力事業(N連)を活用して実施しています。

長野 峻典NGANO Shunsukeタジキスタン駐在員

公立学校で教員、青年海外協力隊を経て2022年11月にAAR入職

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