今年9月に大型台風11号(ヤギ)による甚大な被害を受けたベトナム北部で、AAR Japan[難民を助ける会]は発生直後から緊急支援に取り組んでいます。これまでに、被災した障がい者福祉施設2カ所の復旧・再開支援に加え、2つの村で計502世帯に現金給付を実施しました。2カ月を経た11月上旬の現地の様子を東京事務局の中井敏寛が報告します。
「工房に木工機械の大きな音が響いた瞬間、皆の歓声が上がりました」。首都ハノイの北西約50キロにあるソクソン県カーフェ村。11月7日、障がい者10人が働く福祉施設「チャイティン・ハム」の作業所を訪問すると、ディン・クィン・ガー代表が笑顔で話してくれました。
同作業所では洪水によってすべての工作機械が水没し、9月にAAR緊急チームが訪れた際はスタッフが途方に暮れていました。AARは復旧支援として120万円相当を提供し、コンピュータ制御で木材に模様を刻む彫刻機2台を修理することができました。そして、被災から約1カ月半余りを経た10月末、再び彫刻機が動き始めました。
「電動のこぎりや彫刻機などが全部故障してしまい、本当につらかった。AARの支援を受けて最も高価な機械を修理できたことで、ようやく作業を再開できて、今はほっとしています」とガー代表。今回の経験を教訓として、同じような洪水被害に再び遭わないように別の場所に作業所を移転する計画を立てています。
もうひとつの障がい者福祉施設「タムー・ゴック」(ソクソン県ベン村)では、AARが提供した約80万円で茶葉やドライフルーツを作るための食品乾燥機を修理しました。障がいのあるメンバーら41人が働く作業所を訪れると、香ばしいお茶の香りが漂っていました。
チャンティ・トゥワン代表は、「迅速に支援してくれたおかげで早期に仕事が再開できました。洪水で壊滅的な被害を受けた時は、心労が重なって急に白髪が増えてしまい、家族やメンバーから心配されましたが、最近は少しずつ元の生活を取り戻せてきたように感じます」。そして「今後は職場の仲間と一丸となって製品の質をさらに高めていきたい。私たちを応援してくれた日本の皆さんに感謝します」と話します。
「日本からの支援に感謝します」
AARは、大規模な被害を受けた2つの村(首都ハノイ南西約30㎞のチュオンミー県イェンティン村および同県ナムハイ村)で、被災住民502世帯に当座の生活費として現金を給付しました。
9月17日に現金給付行ったイェンティン村のゴ・ヴァン・ディエンさんは「洪水で養殖魚も菜園の野菜も全て流れてしまいました。このあたりは低地なので特に被害が大きかったのです」と振り返ります。受け取った現金を使って、ディエンさんは家族のために食料品を買ったほか、他の住民と共同で野菜の種や養殖池の水質を改善する薬剤を購入したといいます。
「ベトナムの現地法人で多くの従業員を雇用している日本企業が、AARを通じて寄付をして、私たちを支援してくれたと伺いました。村の住民を代表し、感謝の気持ちをお伝えしたいと思います」と、ディエンさんは子どもを抱き上げて笑顔を見せました。
聞き取り調査によると、これらの村では受け取った現金を魚網などの購入費に充てたケースもあり、支援を受けた住民自身が自ら使途を決めて生活再建に生かすことができる点で、災害発生時の現金給付のメリットが確認できました。
AARは国内外を問わず大規模災害の発生時、被災住民とりわけ障がい福祉施設への支援に力を入れています。ベトナム台風支援にご寄付をお寄せいただいた皆さまに改めて感謝するとともに、引き続き、AARの被災者支援へのご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。
中井敏寛NAKAI Toshihiro東京事務局支援事業部
大学院修了後、地方公務員として障がい者支援・企業誘致・中小企業支援などに従事。2022年4月AAR入職、ラオスやミャンマーの障がい者支援事業を担当