AAR Japan[難民を助ける会]は2014年以降、南スーダンやソマリアなどからの難民が居住するケニア北西部のカクマ難民キャンプとカロベイエ難民居住区、および難民受け入れ地域で子どもたちの就学支援に取り組んで来ました。2023年からは初等教育での中途退学率の減少を目指して、学校と地域の連携をサポートしています。カクマ事務所の中川梨緒奈が報告します。
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地域住民への啓発イベントで寸劇を発表する子どもたち=カロベイエ難民居住区のフレンズ初等校で2024年7月
貧困や親の無理解…2~4割が中途退学
カクマ難民キャンプは1992年に開設され、約22万人が暮らす世界最大級の難民キャンプです。2013年に起きた南スーダンの武力衝突によって、約7万人がキャンプに流入し、急増した難民を受け入れるため2015年にカクマから40キロの場所にカロベイエ難民居住区が新設されました。

これらの地域ではケニア国内でも特に就学率が低いうえ、貧困や早期妊娠、非行、家族の教育への理解不足などが原因で初等教育の途中で退学する子どもが多くいます。正確な統計はありませんが、難民の子どもの約20%、地域住民の子どもの約40%が退学すると言われています。しかし、教員1人が児童70~90人を担当する現状ではきめ細かな指導は難しく、AARは地域住民と協力して、学校と地域の両面から就学継続をサポートする仕組みづくりに取り組んでいます。
「コミュニケーションスキルや問題対応能力、将来の進路指導など、AARの研修で学んだことを生かして子どもたちへの指導を行っています。地域の人たちも積極的に教育に携わってくれるようになりました」と話すのは、カクマ地域フレンズ初等校のジェームス先生です。
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子どもたちの学習支援について話し合う地域ボランティアと教員=難民受け入れ地域のカロベイエ初等校で2023年7月
AARは9校の小学校の教員と各学区から選ばれたボランティアを対象に、児童の中途退学を防ぐための家庭訪問の実施方法や、子どもや保護者への継続的なフォローアップ方法を学ぶ研修を開催しています。研修後も定期的に教員・ボランティア間で会合が開かれ、個々の児童が抱える問題に対してどのようなサポートができるかを話し合います。そうした取り組みの成果として、教員が学校を休みがちな児童の情報を地域ボランティアに共有し、家庭訪問して両親を説得して復学させるとともに、学校側も継続的な通学をサポートする流れが定着しつつあります。
地域ボランティアのジュマさんは、「児童や両親から話を聞くだけでは、学校に通えない本当の理由を教えてもらえない場合もありますが、学校と連携することで家庭の実情を正しく把握し、復学を促せるようになりました」と話します。

難民の家庭を訪問し児童に話を聞く地域ボランティア(左)=2024年6月
教育の大切さを訴える啓発活動
さらに、地域住民に教育の重要性を訴える啓発イベントを各校で実施しました。AARスタッフのサポートを受けつつ、教員と地域ボランティアが主体となって、ダンスや寸劇、歌やバンド演奏など、各校ごとにテーマやプログラムを決めて開いたイベントは、参加者からも大好評でした。ジュマさんは「地域の人々からもAARの地域ボランティアとして認められ、家庭に学校教育の大切さを自信を持って伝えられるようになりました」と笑顔を見せました。

啓発イベントでダンスを披露した子どもたち=カロベイエ難民居住区のフレンズ初等校で2024年7月
学校と地域のサポートを受けて、学校に通えるようになったアナさん(10歳・仮名)は、
「ノートやペンがないので学校に通えず、母や幼い兄弟たちと家で過ごしていました。そんな時、地域ボランティアの人が家に来て、母と話をした後、学校に戻るようにと言われました。以前は友達もいないし本を読むこともなかったですが、今は一緒に遊ぶ友達もでき、本を読めるようにもなってとても嬉しいです」と話します。
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アナさん(右)から話を聞くAARスタッフ=カロベイエ難民居住区のフューチャー初等校で2024年11月
学校や地域と一体になった就学支援は、少しずつですが着実な成果を上げつつあります。難民の子どもたちの学びを支えるAARの教育支援活動へのご協力をよろしくお願い申し上げます。
*この活動は皆さまからのご寄付に加 えて、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
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中川 梨緒奈NAKAGAWA Rionaカクマ事務所
国際関係・国際学を専攻した後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)勤務などを経てAAR入職。2023年1月よりケニア・カクマ事務所駐在