岩手県大船渡市で2月26日に発生した大規模な山林火災では、家を焼失するなどした約200人が今も避難生活を送っています。AAR Japan[難民を助ける会]は現地団体とともに、被災者向けの災害支援制度相談会を開催しています。現地では、森林火災被害特有の課題も見えてきました。

身を乗り出して吉江弁護士(奥中央)の話を聞く被災者の女性たち(手前)=大船渡市立根町の福祉の里センターで2025年4月19日
今回の焼失面積は大船渡市全体の9%に相当し、住宅や倉庫など221棟が焼損しました。被害が大きかった同市三陸町綾里では、道路脇のあちらこちらに幹が黒焦げになった樹々が並んでいます。焼けた家屋がまだ多数残り、風向きによっては喉の奥が痛むような刺激を感じます。全焼した家々の中に無傷で残る家屋があるなど、非日常的な風景となっています。

森林火災のため焼失した家々=大船渡市三陸町綾里で2025年4月19日
茶色に変色する山 倒壊する木々
地元の人々は「最近、焼けた山の姿が変わってきて怖い」と言います。鎮火直後は緑だった木々が、根が焼けてしまったために茶色に変色し、山がまるで紅葉しているようです。根元が焼けた木は突然倒れることもあり、雨が降ると灰と表土が一緒になって流れ出します。

根元が焼けた木が次第に変色してきた山々=大船渡市三陸町綾里で2025年4月19日
4月19日、市内に2カ所ある避難所で「災害支援制度説明会・相談会」が開催されました。地元NPO団体などが結成した「大船渡よりそい・みらいネット」の主催で、弁護士らが住宅再建などに利用できる制度を説明し、個別の相談にも応じます。AARは運営資金を支援しています。

大船市三陸町綾里の避難所、綾姫ホールで開催された「災害支援制度説明会・相談会」=2025年4月19日
土砂崩れの危険 家の再建の障害に
相談会では「家を解体したいが、更地にすると固定資産税が高くなるのか」「高齢なので、家を建て替えても継ぐ人がいない」などさまざまな相談が寄せられました。吉江暢洋弁護士らは「固定資産税は確かにかかるが、今なら公費で解体できる。焼け跡に残ったものが風に飛ばされるなどして周囲に迷惑がかかった場合、責任を問われる可能性もあるので解体した方がよい」「死亡時に自宅を売却して精算する約束で、自己負担を軽くして自宅を再建する災害リバースモーゲージというやり方もある」などと説明していました。

相談会で配られた資料。家の損壊の程度や、家を解体するかしないかで利用できる制度や補助金の額、費用などを紹介している。永野海弁護士作成。
山火事特有の問題も見えてきました。50代の女性は「我が家も、我が家より高い位置にあった家も、裏の山も燃えてしまった。大雨が降ったら土砂崩れが起きるのではないかと怖い。ここに家を建て直していいのか。行政は土砂崩れ対策をしてくれるのか。まず行政が判断してくれないと、家を再建するかどうか決められない。何もできずに待っているのはとてもつらい」と訴えました。吉江弁護士は「まず裏山の所有者が誰と誰なのか、土砂崩れの危険性はどれぐらいかなどを調べ、そのうえで対策を取るかどうか決定することになるだろう。いずれにしろ時間がかかる」と説明。同じ問題を抱える人がいる可能性があることから、よりそい・みらいネットとして、県や市に方針や見通しを問い合わせることにしました。
「無料で気軽」がありがたい
相談会終了後、被災者の方々からは「そもそも何をどこに相談したらいいのか全く分からなかった。やっと道筋が見えてきた」「弁護士に相談するには高い費用がかかると聞いていた。無料で気軽に相談できてありがたい。また利用したい」などの声が聞かれました。
AARは来年3月まで、毎月2回以上の相談会開催の費用を負担するなどして、被災者の方々を支えていきます。また地元で活動する認定NPO法人「おはなしころりん」(本部・大船渡市、江刺由紀子理事長)と協力し、交流活動などの支援を実施する予定です。
必要額に達したため、大船渡市山林火災緊急支援へのご寄付の受け付けは終了しました。