AAR Japan[難民を助ける会]は2014年から、中央アジアのタジキスタンで障がいのある子どもたちが安心して学べる教育環境づくりに取り組んできました。10年にわたる活動を経て、学校や教員の意識に変化が生まれています。タジキスタン・ドゥシャンベ事務所の高島公美がこれまでの歩みと現場の声をお届けします。

AARの研修を受けた教員からアルファベットを習う女子児童=ヒッサール市の学校で2024年10月
障がいへの理解が乏しい社会
AARがタジキスタンの首都ドゥシャンベに事務所を開設したのは2001年。当時は、「障がいは伝染する」という意見が聞かれるほど、障がいに対する社会の理解がなかったそうです。今でも、「障がいのある子どもが痛みを訴えても、保護者が嘘だと思って病院へ連れて行かなかった」といった話が聞かれることもあり、障がいへの理解の浸透には課題が残されています。
AARは当初、障がい者が利用するリハビリ施設や病院への支援を行っていました。2014年からは障がい者への偏見などから生じる教育格差を是正するため、子どもの教育を受ける権利を守る活動を開始。障がいの有無にかかわらず、すべての子どもたちが共に学べるインクルーシブ教育の研修を、教員や保護者、行政職員を対象に繰り返し実施しました。学校ではバリアフリー環境の整備を進め、その後、支援対象を教員養成校にも広げ、現在に至っています。

障がい児教育についての研修で、同僚に自身の経験を話す教員=ヒッサール市の学校で2024年9月
着実に変化している教育現場
以前は「障がいのある子どもが学校に来ても、何も教えられない」という態度だった学校側の意識にも変化が生じています。障がい児が普通学級に入る前に、集団生活や授業を受けることに慣れるための特別学級を設ける学校が増えてきました。
特別学級の教員にはAARの研修を受けた先生が多く配置されています。ある学校で私が出会った若い先生がインクルーシブ教育に精通していたのですが、彼女を育てた先輩教員が、AARの研修の受講者だったそうです。このように、AARの取り組みが教育現場に広がっているのを、さまざまな場面で確認できるようになってきました。

保護者に、就学や高等教育への進学などについて聞き取りを行うAAR職員のヌショファリン(左)=トゥルスンゾダ市の教員養成学校で2024年10月
すべての子どもたちが学べるように
AARの研修に参加した教員から、次のような声が寄せられています。「今までは、障がいのある子どもたちにどのように教えればいいのか、手探り状態でした。AARの研修のおかげで、私自身にも様々な学びがありました。視覚補助教材の使い方や動き回る子どもに対する接し方などを実践し、子どもたちにも還元することができています」。また、教育実習生は、「教育実習で、障がいのある子どもに教えたことで、いろんな個性の子どもがいるということを、実体験として学ぶことができました」と話します。
AARは、インクルーシブ教育を実現し、障がいの有無に関わらずすべての子どもたちが笑顔で学べる社会を目指しています。これからも現地に根ざした活動を通じて、「学びの場」を届けていきます。

在タジキスタン日本国大使やタジキスタン教育省副大臣が参加し、インクルーシブ教育の促進等について話し合ったAAR主催のIEシンポジウム=ドゥシャンベ市で2025年2月

高島 公美 TAKASHIMA Masamiドゥシャンベ事務所
2007年にインド北部で初等教育支援に取り組んだ後、モロッコ王国やガイアナ共和国でJICA海外協力隊員として幼児教育に従事。その後、カンボジアやウガンダで初等教育支援の駐在職員を務め、2024年にAAR入職。



