活動レポート Report

凍るキーウ 電力・暖房途絶え闘い続ける人々:ウクライナ軍事侵攻4年現地報告

2026年2月24日

ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まって2月24日で4年、東部の戦闘やミサイル・ドローン攻撃が続き、和平どころか停戦の兆しも見えません。市民生活の破壊を狙ったインフラ攻撃の被害は甚大で、厳冬期のウクライナでは電力や暖房供給が極度に不足し、人々は厳しい状況に耐えています。AAR Japan[難民を助ける会]の支援活動に関わってきたジャーナリスト中坪央暁が首都キーウから報告します。

戦死者の葬儀に集あつまる親族

キーウ市内の墓地で営まれた戦死者の葬儀=2026年2月17日(中坪央暁撮影)

支え合って困難に立ち向かう

「この4年間で一番つらい冬」――キーウで会った何人もが口にした言葉です。例年以上の寒波が襲来した今年1月、連日の夜間攻撃で発電所などが破壊され、最低気温が氷点下20度にもなる時期、キーウを中心に100万世帯以上が電力と暖房を一時完全に喪失。首都の人口約360万人のうち、親せき宅などの避難先がある市民60万人が市外に退避する事態に陥りました。

寒そうに寄り添う男女の写真

キーウ地下鉄駅に避難して寄り添うカップル=2月12日(Alex Babenko撮影)

2月中旬になっても完全復旧とは程遠い状況が続き、多くの市民が地下鉄駅で寝袋や毛布にくるまって夜を過ごしたり、暖房と電源を備えた大型テントの避難所で食事を受け取ったりする姿が見られます。炊き出しのボルシチとパンを手にした独り暮らしの高齢男性は、「夜中に攻撃がある度に不安でたまらなくなる。暖かい避難所に来るとほっとするよ」と安どの表情を見せました。

地面薄いキャンプ用マットを敷いて眠る人々

キーウ地下鉄駅に避難して夜を過ごす人々=2月12日(Alex Babenko撮影)

旧ソ連時代に建てられた古い集合住宅で、娘と孫の3人で暮らすタマラさん(74歳)は「一番寒い季節に電気も暖房も水もなく、うんと厚着して毛布をかぶって数日間過ごしたけれど、4歳の孫娘はひどい風邪をひいてしまって」。娘の夫は出征中とのことで、戦時下のウクライナでは女性と子ども、高齢者だけの世帯が少なくありません。

避難所炊き出しの様子

キーウ市内の避難所で温かい食事を受け取る人々=2月17日(中坪央暁撮影)

タマラさんの集合住宅には発電機が配備されたものの、今も日によって昼間の数時間ほど停電になるとのこと。12階に住むタマラさんは高齢にも関わらずエレベーターを使わずに、懐中電灯を手に薄暗い階段を何度も上り下りする毎日です。「老朽化しているうえに停電で急に止まって閉じ込められる恐れがあって、とても怖くて乗れません」。

暗く狭いコンクリートの階段を上る写真

集合住宅の薄暗い階段を上るタマラさん=2月17日(中坪央暁撮影)

キーウの人々はそれぞれ精いっぱい工夫して困難と闘っています。夫が軍務に就き、ひとりで家を守るタイスさん(32歳)は、台所のガスコンロでレンガを熱して「2~3時間は温かい」という即席カイロを作り、部屋にテントを張って飼い猫と一緒に寝ています。日常生活に加えて、パソコンを使って在宅勤務しているので電気は欠かせず、「貯金をはたいて室内用蓄電池と小型バッテリーを買って、電気が短時間戻った時に急いで蓄電したり、近所の給電スポットを利用したりしています」。

温水シャワーが出ないので友人宅で借りているというタイスさんは、「もうすぐ平和になるなんて期待していないけど、こんな時だからこそ皆で助け合わないと」。日本から持参した使い捨てカイロを手渡すと、「ありがとうございます!でも私は何とでもなるので、もっと困っている近所のお年寄りにあげてもいいですよね。きっと喜びます」。互いに支え合って難局を乗り越えようとするキーウの人々の優しさとたくましさを感じました。

タイスさんと飼い猫

部屋にテントを張って暮らすタイスさん=2月17日(中坪央暁撮影)

長引く戦争 増え続ける犠牲者

米戦略国際問題研究所(CSIS)の推計によると、2022年2月以降の死傷者はロシア軍120万人、ウクライナ軍50万~60万人。ウクライナ側の民間人の犠牲も都市部への攻撃が激化した昨年来急増し、これまでに約1万5,000人が死亡、約4万人が負傷しました。ウクライナ各地で毎日のように戦死者や民間人犠牲者の葬儀が営まれ、教会や広場に掲げられた遺影は増え続けています。

無数の遺影とその前を通り過ぎる人

修道院の壁に掲げられた戦死者の遺影=2月15日(中坪央暁撮影)

「プーチンは決して約束を守らない。仮に停戦合意しても軍備を増強して必ず再侵攻してくる」「トランプ大統領を信頼するかって?冗談じゃない、全くあてにしていません」「この戦争は5年10年、あるいはそれ以上続くだろう」。キーウの人々は平和が戻るのを願いつつも、早期の戦争終結を楽観してはいません。

ウクライナ軍事侵攻は曲がりなりにも維持されてきた国際社会の秩序を崩壊させ、「力による現状変更」、言い換えれば「侵略戦争」のハードルは一気に下がりました。日本を含めてその影響を受けない国はなく、ウクライナ危機は傍観者として眺めていれば済むような、どこか遠くで起きている「対岸の火事」ではないのです。

何より忘れてはならないのは、私たちと同じ普通の人々の命が日々失われているという事実であり、それこそがこの戦争を一日も早く終わらせなければならない最大の理由です。ウクライナ危機は同時代を生きる私たち一人ひとりに突き付けられた問題なのだと私は考えます。

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中坪 央暁NAKATSUBO Hiroaki東京事務局兼関西担当

全国紙の海外特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の派遣でアジア・アフリカの紛争復興・平和構築の現場を取材。2017年AAR入職、バングラデシュ駐在としてロヒンギャ難民支援に従事。2022年以降、ウクライナ危機の現地取材と情報発信を続ける。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』、共著『緊急人道支援の世紀』ほか。

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