2011年の「アラブの春」をきっかけに始まったシリア内戦は、発生から10年を経て、未だに解決の糸口が見つからない状況が続いています。苦境に追い打ちをかけるように、シリア国内では昨年来、新型コロナウイルス感染拡大が未曽有の人道危機をさらに悪化させています。
AAR Japan[難民を助ける会]は2014年以降、現地協力団体と連携して、シリアの国内避難民および地域住民に対する人道支援活動を続けており、現在はコロナ対策の衛生用品配付、障がい者家庭への支援を実施しています。
木々の間に白いテントが立ち並ぶ国内避難民キャンプ。8月下旬のある日、伝統的なクーフィーヤで頭を覆った男性たち、ヒジャブを被った女性たちが物資配付所に立ち寄り、AARが調達した衛生用品セット(マスクや石けん、洗剤、ウェットティッシュなど)を受け取りました。「こういうものは手に入りにくいから本当に助かるよ。ありがとう」。お年寄りのテントには、現地協力団体の職員が物資を担いで届けます。
配付した衛生用品は1世帯当たり30日分に限られますが、今回支援を実施した地域では昨年来、コロナ禍による行動制限や物資の移動規制などの影響もあって、70万人以上が衛生用品を入手できずにいました。こうした状況を少しでも改善するために、AARは衛生用品の配付と合わせて、マスク着用や手洗いの励行を呼び掛ける衛生啓発活動を実施しています。シリア国内では安全上の理由で日本人職員が活動できないため、現地協力団体と連携して物資の調達・配付を進めています。
また、シリアには空爆などで負傷した障がい者が少なくありません。現地調査によると、12歳以上の避難民の40%に何らかの障がいがあり、避難民キャンプで暮らす世帯の76%に少なくとも1人の障がい者がいます。そうした障がい者の多くは以前から厳しい生活環境に置かれていましたが、コロナ感染拡大以降、公共交通機関が停止されて病院に通えなくなったうえ、NGOなどの障がい者支援活動も中断を余儀なくされています。
こうした状況が続くと、障がい者の健康状態がさらに悪化し、生活の質を低下させる深刻なリスクを招いてしまいます。AARは現在、医療サービスにアクセスできない障がい者に対して、理学療法士やカウンセラーの戸別訪問によるリハビリテーション、心理カウンセリングを通じて、障がい者と家族の生活改善を図っています。
シリア国内では泥沼の紛争に加え、コロナ禍が最も弱い立場にある避難民や障がい者をますます追い詰めています。さまざまな制約がある中、AARはこうした人々を最優先して人道支援活動に取り組んでいます。AARのシリア難民・避難民・障がい者支援へのご理解・ご協力を重ねてお願い申し上げます。