エチオピア北部ティグレ州で2020年11月に発生した政府軍と武装勢力の衝突を逃れて、隣国スーダンに6万人超の難民が流入して1年あまり。
AAR Japan[難民を助ける会]はスーダン東部のカダーレフ州にあるトゥナイバ難民居住地で、水衛生環境改善事業として、学校の給水タンクと手洗い場の設置、衛生用品(石けん、マスク、生理用品など)の配付、衛生啓発活動を現地協力団体とともに実施しました。
給水施設を設置した難民居住地の中学校の教師と生徒にインタビューしました。
テスファイさん(教師・34歳)
私はエチオピアで教師をしていたので、ここの学校でも生物を教えています。生徒の数に対して教室が足りないため、授業は午前・午後の2部制です。夕方6時に仕事が終わると、妻と娘が待つテントに帰ります。居住地で時々開かれる集まりに参加して、最近のエチオピアの状況について情報交換しますが、あまり良いニュースはないですね。
子どもたちは武力衝突の悲惨な光景を目にしてきたので、心理面のサポートが必要だと感じます。もちろん学習環境を整えることは大きな課題ですが、教室やトイレ、学習教材がまだまだ足りません。家族の助けになればと学校を辞めて日雇い仕事に行く生徒もいるので、生活費の支給など経済支援があればとも思います。
AARが国連機関と協力して、私たちの学校に給水タンクと手洗い場を設けてくれたことに感謝します。生徒たちには少しでも良い環境で教育を受けて、将来は医師やエンジニア、教員などの専門職に就き、紛争で疲弊した祖国を再建できる人材になってほしいと願っています。
メイエイさん(生徒・17歳)
私は11年生(中学~高校相当)ですが、ここでは教室が足りないので午後の部に通っています。両親と妹3人の6人家族で暮らしていて、午前中は食事やお茶の支度など家事の手伝いをします。食料や支援物資が配られる時は、受け取りのために長時間待つ必要があるので、授業を欠席しなければならないのが残念です。
居住地の学校は教室も教材も不足していて、快適に勉強できる環境とは言えません。トイレも整備されていないので、トイレに行きたい時はいったん授業を抜けて家に帰っています。それでも新しい給水タンクや手洗い場ができて、少しずつ改善されてきたので、みんな喜んでいます。
いつになったらエチオピアに帰れるのか分かりませんが、私は勉強が好きなので、家でも頑張って学校で習ったことを復習しています。あきらめずに勉強を続けて、将来は人々を助ける医者になりたいと思っています。
長引く避難生活、水衛生環境を改善
エチオピアでは政府軍と少数民族ティグレ人の武装勢力の戦闘が続き、同国政府は2021年11月2日、全土に非常事態宣言を発令しました。過酷な環境で暮らす難民が故郷に帰還できる見通しはなく、スーダンでの避難生活は長期化することが予想されます。
AARは2021年9~10月、約8,800世帯・1万9,500人が滞在するトゥナイバ難民居住地で、水衛生環境改善事業を次の通り実施しました。
【水衛生設備の設置】
・幼稚園4校、小学校1校、中・高校1校に水タンクを1つずつ計6基、および同様に手洗い場を計28基設置。給水タンクは国連機関が設置した給水パイプに接続され、安全な水が供給されている。
【衛生用品の配付】
・石けん1,289世帯(4,195人)、マスク1,327世帯(4,146人)、女性用衛生セット(生理用ナプキン、下着など)を2,011人に配付。ゴミ箱を居住地全域に83基設置。
【衛生啓発活動】
・難民ボランティアとともに、衛生啓発を呼び掛ける集まりを105回(参加2,405人)実施。石けんやマスクを届けながら、新型コロナウイルス、E型肝炎などの感染症予防に関する冊子を配付した。
AAR Japanは難民の人々が少しでも衛生的な環境で安心して暮らせるように、難民キャンプ・居住地の衛生環境の改善に力を入れています。AARの難民支援、衛生分野の取り組みへのご支援をよろしくお願い申し上げます。
大澤 由恵OSAWA Yoshieスーダン事務所
在学中に中国へ留学し、日中の戦争についての歴史教育を調査。日本とタイの大学院で、タイの難民キャンプにおけるミャンマーの少数民族の教育を研究。その後、香港の日本人学校で教員に。2019年7月に入職し、タジキスタン、トルコ、スーダンで駐在員として勤務。