活動レポート Report

「祖国防衛に残った夫と息子が心配」 : ウクライナ難民の女性たち

2022年3月11日

母が子どもを大事そうに抱きしめている

ポーランドに逃れて来たウクライナ難民の母子=ワルシャワ郊外で3月10日撮影

ロシアの軍事侵攻にさらされる東欧ウクライナでは、一般市民など数百人が死亡し、約200万人以上の難民が周辺国に逃れたほか、同国東部など比較的安全な地域に留まる国内避難民も100万人超に上ります(3月10日現在)。西隣のポーランドには難民の半数以上が流入し、恐怖と不安の中で避難生活を送っています。

AAR Japan[難民を助ける会]はポーランドのカトリック修道会などと連携し、ウクライナ側に支援物資を送る活動を開始しました。AAR東京事務局の中坪央暁がポーランドの首都ワルシャワから報告します。

誰も予測していなかった事態に

ウクライナ周辺の地図「町中に突然、警報のサイレンが鳴り響き、やがて爆撃の音が遠くのほうから段々と近づいて来るのが分かりました」。ウクライナの首都キエフの西郊ジトーミルからポーランドに避難したルバさん(43歳)は、ロシアの軍事侵攻が始まった2月24日の様子を語りました。ワルシャワから車で南西に約1時間の田舎町。地元自治体が借り上げた簡素なホテルに、ルバさんたちウクライナ難民が数世帯仮住まいしています。

不安そうな面持ちでいる女性3人

避難先のホテルで避難時の様子を話すウクライナ難民の女性たち=ワルシャワ郊外で3月10日撮影

ジトーミル市長が女性と子どもの即時退避を呼び掛けたため、ルバさんはリュック2つだけを持って、12歳と3歳の息子2人を連れて用意されたバスに乗り込み、24時間かけてポーランド国境にたどり着きました。越境して別のバスでワルシャワまで移送されたものの、この先どうしたらいいのか途方に暮れていた時、ボランティア関係者の紹介でカトリックの修道院に送られ、数日間過ごした後にホテルに移動となりました。

ルバさんは「工場労働者の夫(46歳)は志願してウクライナ軍に加わりました。長旅に耐えられないので仕方なく残してきた76歳の老母を長男(20歳)が世話していますが、間違いなく徴兵されるでしょう。そうしたら母はどうなってしまうのか、夫と息子は生き延びられるのか、ただただ心配でなりません」と訴えます。

10人近くの子どもたちが机を囲んでいる

ウクライナ西部テルノピリ州の修道会の仮設教室で勉強する避難民の子どもたち=汚れなき聖母マリアの修道女会提供

2014年にロシアに併合されたクリミア半島に近いサポリージャ州のアリナさん(35歳)は、2人の娘と避難して来ました。「ロシア人の住民も多い地域ですが、私たちウクライナ人との間で対立感情もなく、平和に暮らしていました。こんなことが起きるとは誰ひとり予測していなかったのに…」。アリナさんのエンジニアの夫(36歳)も現地に残り、ロシア軍の侵攻を阻むためのバリケードを築いているといいます。

ウクライナ政府が祖国防衛のために18~60歳の成人男性の出国を禁じたため、難民は女性と子どもが大半を占めます。女性たちは「ウクライナ人は強い精神を持っています。自由を求めるウクライナが最後には必ず勝ちます」と異口同音に訴えながらも、祖国に残る夫や息子、兄弟、高齢の親を思い、時おり涙ぐんでいました。

修道会を通じた国内避難民支援

笑顔で支援物資を囲む子どもら6人家族

ウクライナ西部テルノピリ州で、ポーランドから届いた支援物資を受け取って安心した表情を見せるウクライナ東部からの国内避難民=汚れなき聖母マリアの修道女会提供

AARはポーランド・ウクライナ両国にネットワークを持つポーランドのカトリック教会「汚れなき聖母マリアの修道女会」と連携して、当会に寄せられたご寄付で調達した支援物資を陸路越境してウクライナ西部に輸送する支援活動を開始しています。同修道女会の支部であるウクライナ西部テルノピリ州の修道院には2月末以降、ロシア軍の攻撃を受けた北東部の都市ハリコフの母子施設で暮らしていた約70人の女性や子どもが身を寄せています。

シスターが子どもに寄り添って子どもたちの食事の様子を見守っている

ウクライナ西部テルノピリ州の修道院で食事をする母子=汚れなき聖母マリアの修道女会提供

同修道女会トップのマザー・レティツィアは「テルノビリ州の修道院は、国内に留まりたいという母子の避難先に加え、ポーランドを目指す避難者の臨泊施設としても機能しています。一帯には数千人の避難民がおり、これまでに2度送った食料や衣類、医薬品、衛生用品は修道院だけでなく、近隣でも配付しました」と説明します。混乱の長期化を見越して、この修道院は母子をはじめ東部地域からの避難者がある程度の期間、落ち着いて生活できるように200人規模の受け入れ態勢を整える計画です。

パソコン越しに不安そうな表情を浮かべるシスター2人

ウクライナ西部テルノピリ州の修道院のシスターたち(オンライン会議)

マザー・レティツィアは「仮に戦闘が終わっても、避難した人々がすぐに帰還できるわけではありません。今は緊急物資の提供が急がれますが、その先も必要な限り支援を続ける必要があると考えています」と話し、「AARを通じて日本から寄せられた支援に心から感謝します。ウクライナの人々を救うために、これからもどうぞ力をお貸しください」と訴えています。

笑顔で支援物資を手にするシスター

ワルシャワの修道院に集められた支援物資。ご寄付をお贈りいただいた一般社団法人Think The Day(道休紗栄子・代表理事)のロゴが貼られている=3月10日撮影

国際秩序を根底から覆す軍事侵攻によって発生したウクライナの混乱は、21世紀最大級の人道危機へと拡大しています。AARのウクライナ難民・国内避難民支援へのご協力を重ねてお願い申し上げます。


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中坪 央暁NAKATSUBO Hiroaki東京事務局

全国紙特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の平和構築事業に従事。東ティモール独立、アフガニスタン紛争のほか、南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島など紛争・難民問題を長期取材。2017年11月AAR入職、2019年9月までバングラデシュ・コックスバザール駐在としてロヒンギャ難民支援に携わる。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』(めこん)、共著『緊急人道支援の世紀』(ナカニシヤ出版)、共訳『世界の先住民族~危機にたつ人びと』(明石書店)ほか。

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