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活動レポート Report

ウクライナ難民を支えるボランティア:ポーランド最前線報告

2022年3月14日

ロシアの軍事侵攻にさらされる東欧ウクライナから周辺国に逃れた難民は約250万人に上り、このうち西隣ポーランドには7割近い約170万人が流入(通過)しています。現地に来て分かったウクライナ難民の大きな3つの特徴について、ポーランドの首都ワルシャワからAAR Japan[難民を助ける会] 東京事務局の中坪央暁が解説します。

数台のバスの前に、人々がすし詰めになって乗車を待っている

ウクライナから国境を越えてポーランド南東部コルチョバの難民受付センターに着いた難民=2022年3月12日撮影

1.難民キャンプはありません

「難民」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、白いテントが建ち並ぶ難民キャンプかも知れません。しかし、ウクライナ難民が大量流入するポーランドには難民キャンプは存在しません。国境を越えた難民は難民受付センターなどを経て、鉄道やバスで速やかにワルシャワをはじめポーランド各地の都市、あるいはドイツ、オーストリアといったEU(欧州連合)域内の国々に移動していきます。交通費はすべて無料です。

段ボールに敷き詰められた飲料水や野菜を手に取る人々

ワルシャワ中央駅前の食料配給所。無料で配られるパンや果物、飲み物などは主に一般市民や企業が提供している=2022年3月11日撮影

ウクライナはEU加盟国ではありませんが、緊急措置として加盟国ポーランドへのウクライナ難民の越境が認められ、いったんEU域内に入ってしまえば、後は原則として自由意思でどの国へも行けます。アジア・アフリカで国境沿いの難民キャンプ・難民居住地を経験してきた筆者にとって、難民として越境したとたん「どこどこ行きバス、あと5席残ってます。誰か乗りませんか~?」という軽いノリで自由に移動できる状況は少々驚きでした。

人気のある行先はドイツ、スウェーデン、スペインあたりのようです。割合は分かりませんが、ポーランドに暫定的あるいは中長期的に残留することを選択した難民は、仮設収容施設で1~2泊した後、地方自治体が借り上げた簡易なホテル、スペースのある公共施設、さらに一般市民が自宅に受け入れて民泊するなどしています。

2.ポーランド市民の大奮闘

黄色のゼッケンを着用した人がスープを入れている。行列ができている。

ワルシャワ中央駅前の大型テントの食堂で温かいスープを配る市民ボランティア(左側)=3月11日撮影

ウクライナ難民の受け入れで大きな役割を果たしているのは、実はポーランドの普通の人々です。難民支援というと、当該国政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などが主導するのが通例ですが、ここでは政府や国連機関の姿は見えません。例えば、ポーランド南東部コルチョバの難民受付センターは地元行政と企業、一般市民が連携して運営し、ワルシャワ郊外の大型展示場に設けられた一時収容施設は、何と施設の所有者である民間企業が主体となっています。

もともと知人でも何でもない難民の家族を自宅に招いたり、アパートの空いている部屋に住まわせたりということを、多くのワルシャワ市民が実行しているのです。ポーランド政府は後追いする形で、受け入れている難民1人当たり1日40ズウォティ(約1,200円)を助成することを決めました。

簡易ベッドが大量に並べられている。ベッドの上で過ごす子どもたちがいる

ワルシャワ郊外の大型展示場に設けられた難民の一時収容施設ⓒPTAK

前出の難民受付センターや収容施設、ワルシャワ市内の主要駅などで食料や医薬品の配付、難民の誘導、バスの運行といった業務に携わるのも、黄色いゼッケンを着用した市民ボランティア。配付される支援物資も地元企業が提供したり、市民が持ち寄ったりしたもので、一部助成金はあるようですが、政府の存在感はほとんどありません。

あるポーランド人男性は「ポーランドとウクライナの関係は全面的に良好というわけではありませんでしたが、それ以上にポーランドはロシアや旧ソ連に踏みにじられてきた歴史があります。今は心をひとつにしてウクライナを応援しているのです」と話してくれました。

3.難民は女性と子どもばかり

ひと目で気付くのは、ウクライナ難民がすべて女性と子ども、高齢者で占められ、成人男性の姿がないことです。これはウクライナ政府が先月25日、祖国防衛のための「総動員令」を発令して18~60歳の男性の出国を禁止したためです。ウクライナ国民はこの命令に従い、国境まで家族を見送りに来て男性だけ引き返す光景が繰り広げられる一方、ごく一部ながら一緒に越境すると主張して制止されるケースもあるようです。

スーツケースを手にしてバスの近くを通る親子

ポーランド南東部コルチョバに着いた親子。成人男性の出国が禁止され、難民は女性と子どもが大半を占める=3月12日撮影

ウクライナ東部から避難してきた子ども連れの女性に何人かインタビューしたところ、「夫は志願してウクライナ軍に加わりました。間もなく息子も徴兵されるでしょう」「子どもだけでも海外に出さなければと国境を越えましたが、夫は残ってウクライナ軍を支援しています」といった話が例外なく聞かれました。

戦禍を逃れて外国で難民になるという最も困難な時に、家族が引き裂かれ、夫や父親がいない不安な状況に女性たちが耐えている気配が感じられます。

AARはウクライナとのネットワークを持つポーランドのカトリック修道会と連携して、ウクライナ国内の避難民に食料・医薬品などの支援物資を送る活動を実施しているほか、モルドバに調査チームを派遣して難民支援の準備を進めています。

国際秩序を根底から覆すロシアの軍事侵攻によって発生したウクライナの混乱は、21世紀最大級の人道危機へと拡大しています。AARのウクライナ難民・国内避難民支援へのご協力を重ねてお願い申し上げます。

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中坪央暁 NAKATSUBO Hiroaki東京事務局

全国紙特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の平和構築事業に従事。東ティモール独立、アフガニスタン紛争のほか、南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島など紛争・難民問題を長期取材。2017年11月AAR入職、2019年9月までバングラデシュ・コックスバザール駐在としてロヒンギャ難民支援に携わる。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』(めこん)、共著『緊急人道支援の世紀』(ナカニシヤ出版)、共訳『世界の先住民族~危機にたつ人びと』(明石書店)ほか。

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