AAR Japan[難民を助ける会]は、首都・キーウから南西260キロに位置するビンニツァ(Vinnytsia)市と、ルーマニア国境近くのチェルニウツィ(Chernivtsi)市で、障がいのある避難民を受け入れている施設への支援を開始しました。AAR東京事務局の紺野誠二が報告します。
知的障がい者施設「予算が40%削減」
ビンニツァ市にある知的障がい者の親の会が運営する「オープン・ハーツ(OPEN HEARTS)」では、現在105家族が活動しています。同団体が運営する施設では、戦闘の激しいウクライナ東部から避難して来た知的障がい者や高齢者とその家族を受け入れています。今後も避難してくる家族の増加が見込まれることから、AARは施設内に新たに6つの居室と倉庫、会議スペースを設置するのを支援します。
現在この施設には、東部のドネツク州とルハンスク州から、4月中旬に避難してきた人たちが暮らしています。寝たきりの男性とその妻、そして軽度の知的障がいのある娘の3人家族もいました。さらに、私が訪問した翌日には、南部ヘルソン州から車いすの利用者とその家族、計2人が到着する予定になっていました。
オープン・ハーツは行政と連携して活動を行っていますが、会計担当者のスヴェトラーナさんは「ロシアによる軍事侵攻に対応する予算を確保するため、行政から私たちへの支援は40%も削減されてしまいました。今後の予算もどうなるか分かりません。支援を必要としている障がい者がたくさんいるのに、以前やっていた木工制作や農作業、レスパイト・ケア(障がいのある人と介助する人が一時的に離れて過ごすこと)を再開するめども立ちません」と不安げな表情でした。
重度障がい児施設に42人が避難
チェルニウツィ市にある身体障がい者の当事者団体「リーダー(Leader)」は、チェルニウツィ州障がい者権利委員会代表で、夫も車いす利用者であるヴァレンティーナ・ドブリディナさんが代表を務めています。AARは同団体を通じ、5つの病院や福祉施設への支援を進めます。
一つ目は、チェルニウツィ市に近いストロシネッツ(Storozhynets)市にある「ストロシネッツ緊急総合病院(Storozhynets Multidisciplinary Intensive Care Hospital)」のリハビリ入院病棟の一室に、車いすの人でも利用できるよう、洗面台やトイレを新たに設置します。この病院は、通院患者も含め約400人の避難者の治療にあたっています。アレクサンダー医院長は「実はこの病院は1912年にできました。ハプスブルグ帝国が作った病院です」と話していました。歴史を感じ、びっくりすると同時に、修繕の必要性を実感しました。
二つ目は、重度心身障がい児のための「マガリアン重症心身障がい児施設(Magalian Children’s Psycho-Neurological Boarding School)」で働くケアワーカー(介護者)5人分の給与の提供です。もともとこの施設には10人が入所していましたが、今回の戦闘で42人が東部ドネツク州から避難してきました。複数のNGOが支援に入っていますが、人手や予算がとても足りていません。施設長のミハイさんは、入所している子どもにバンバン腕を叩かれても「今日はこの子は調子がいいようだね」とニコニコ顔。子どもたちが大事にされているのを感じました。
三つ目は、障がい者と高齢者を受け入れている「チェルニウツィ州老齢年金者施設(Chernivtsi Geriatric Pensioner )」への調理器具の提供です。嚥下(飲み込むこと)が難しい人用に料理を細かくするための特殊な器具です。この施設には、2014年の親ロシア派勢力による武力攻撃に続き「2回目の避難生活です」という方もいました。このほか、障がい者の方への現金支給(1人2,000 UAH、約9300円)、各種セミナー開催も予定しています。
膨大なニーズが山積み
ビンニツァ市とチェルニウツィ市を訪問して、まだ膨大な支援ニーズがあることを実感しました。例えば、チェルニウツィ州全体には、7月現在、約10万5000人の国内避難民(うち2万人が子ども)がいること。国際的な支援が入って現金給付がなされているものの、住まいの確保が課題であること。今、やむなく入居している建物の修理や改善が必要なこと。障がい児も含む2万人の子どもたちの教育やこころのケアの観点からスポーツ・芸術活動のための環境を整えることなどです。
AARはウクライナの障がい者関連団体や当事者の方々とともに、一歩ずつ支援活動を展開してまいります。
ウクライナでの障がい者の方々の状況については、こちらでも解説しています。
*日本外務省の海外安全情報(7月末現在)では、ウクライナは「レベル4:退避勧告」に該当しますが、AAR Japanは独自に情報収集を行い、同国中西部地域については、安全を確保して短期間入域することは可能と判断しました。AARは今後も万全の安全対策を講じながら、ウクライナ人道危機に対応してまいります。
紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局
AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業などを担当。