AAR Japan[難民を助ける会]の堀江良彰理事長は7月末、ウクライナ西部テルノピリ州にある修道院を訪問し、ロシアの軍事侵攻を逃れた国内避難民の女性や子どもたちに会いました。AARは今年3月以降、隣国ポーランド、モルドバを拠点に難民・避難民支援に取り組んでいますが、ウクライナ国内に直接支援を届けたのは初めてです。AAR東京事務局の中坪央暁が現地から報告します。
「よくいらっしゃいました。日本から私たちに会いに来てくれて本当にありがとう」
ポーランド南東部から車で国境を越え、ウクライナ西部の中心都市リヴィウ経由で到着したテルノピリ州ヤズローヴィツ村。村はずれの美しい林の中にたたずむ修道院で、シスターや子どもたちが笑顔で迎えてくれました。
中世の古城に隣接して19世紀に建てられた修道院には、ロシア軍の攻撃が始まった2月下旬以降、ウクライナ東部や南部から避難して来た女性や子ども(乳幼児~10歳前後)を中心に一時は100人以上が身を寄せ、7月末時点では約60人が滞在しています。世話をする同行者がいない高齢の女性も複数含まれ、私たちの滞在中にも東部から逃れて来た母子が新たに到着しました。
ポーランド人の修道院長、シスター・ユリアは「ここに長く留まる母子もいれば、しばらく滞在してポーランドに移っていく人たちもいます。国内の物流が滞る中、この修道院は近隣の避難者や地域住民、地元の病院に支援物資を分配する拠点にもなっています」と説明します。修道院に集積された食料や医薬品・衛生用品の一部は、他の支援物資と一緒に、生活物資が不足する東部に送られています。
AARは3月以降、ポーランドの首都ワルシャワ郊外に本部を置くカトリックの修道会「汚れなき聖母マリアの修道女会」と連携して、当会に寄せられたご寄付を原資に食料や医薬品、衛生用品、衣類、家電製品などを調達し、ヤズローヴィツ修道院に陸路輸送する支援を実施してきました。AARは特定の宗教を背景とする団体ではありませんが、ウクライナ国内にネットワークを持つ信頼できる現地パートナーとして修道会と協働しています。
AARの支援を受けて、修道院では母子たちが居住する部屋、キッチンの設備、屋外の遊び場、万一の場合に備えた地下シェルターなどを整備したほか、医療関係者との協力の下、医薬品を備蓄した医務室を設けました。また、ウクライナ国内では学校休校の代替措置としてオンライン授業が行われており、小学生たちは4月以降、AARが提供したパソコンで授業を受けています(7月末時点は夏休み中)。
モンベルのTシャツをプレゼント
今回の訪問では、アウトドアブランドの株式会社モンベル(本社:大阪市)から贈られたTシャツを持参し、堀江理事長が子どもたちにひとりずつ手渡しました。さまざまな柄のTシャツは子どもや母親たちに好評で、早速着替えたディマ君(8歳)は「戦争をしている国に来てくれるなんて、すごいと思う。とても素敵なTシャツをもらって嬉しい」。ナターシャさん(8歳)も「Tシャツをありがとう。他の所にいる友だちに自慢したいです」とはにかんだ笑顔で話しました。
修道会を通じた支援活動は、すべて当会に寄せられたご寄付によって行われています。皆さまの温かいお気持ちは、確かな支援の形になって現地に届いています。引き続き、AARのウクライナ難民・国内避難民支援へのご協力をお願い申し上げます。
*日本外務省の海外安全情報(7月末現在)では、ウクライナは「レベル4:退避勧告」に該当しますが、AAR Japanは独自に情報収集を行い、同国西部地域については、安全を確保して短期間入域することは可能と判断しました。AARは今後も万全の安全対策を講じながら、ウクライナ人道危機に対応してまいります。
中坪 央暁NAKATSUBO Hiroaki東京事務局
全国紙特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の平和構築事業に従事。東ティモール独立、アフガニスタン紛争のほか、南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島など紛争・難民問題を長期取材。2017年11月AAR入職、2019年9月までバングラデシュ・コックスバザール駐在としてロヒンギャ難民支援に携わる。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』(めこん)、共著『緊急人道支援の世紀』(ナカニシヤ出版)、共訳『世界の先住民族~危機にたつ人びと』(明石書店)ほか。