活動レポート Report

「早く家に帰りたい」女性たちの想い:ウクライナ現地報告

2023年4月4日

ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでは、周辺国に逃れた約800万人の難民に加え、約600万人の国内避難民が不安な日々を過ごしています。その大多数は女性と子ども、そしてお年寄りです。AAR Japan[難民を助ける会]が支援する同国西部テルノピリ州の修道院に身を寄せる避難民の女性たちに、AARモルドバ駐在員の東マリ子が今の想いを聞きました。

※AAR Japanは特定の宗教を背景とした団体ではありません。この事業は避難民支援を目的としたもので、宗教活動には一切関わっていません。

ウクライナ解説動画(読売テレビ×AAR Japan)

ウクライナ支援活動報告

「ハチュー・ダモイ」~家族を思う日々

ライサさんは1年前の昨年4月、東部ルハンスク州からバスで4日かけてポーランドに逃れました。9カ月の避難生活を経て、やはり母国で暮らしたいと今年1月末、テルノピリ州のヤズローヴィツ修道院に移りました。

息子さんは妻と5人の子どもたちとドイツで避難生活を送っています(18歳未満の子どもが3人以上いる男性は兵役免除)。娘さんはロシアのサンクトペテルブルク在住のため、子どもたちに会えない状況が続いています。夫は8年前に亡くなりましたが、年末には子どもや孫たちがライサさんの家に集まり、家族みんなで新年を迎えていました。「毎年夏には娘を訪ねて3カ月過ごすのが楽しみだったのに……。もう1年以上も子どもや孫たちに会えなくてとても辛いの」

自宅でインタビューライサさんの写真

家族を思い続けるライサさん

修道院は食事や寝室が提供され、誰もが優しく接してくれる心安らげる場所だといいます。避難生活が長期化する中、修道院では避難している人たちがより快適に過ごせるように、AARなどの支援で改築工事が進んでいます。「皆さんには本当に感謝しています。でも、古くて小さな家だけど、やっぱり自分の家が恋しいわ」

「ハチュー・ダモイ(家に帰りたい)」――。ライサさんはそう何度も声を詰まらせました。「今年の春には帰れるものと思っていたけれど、残念ながら無理なようね。夏には帰れるかしら。せめて夏の終わりにでも……」。73歳と高齢で糖尿病を患っているライサさん。家族に会えない寂しさと不安は限界に達しています。

ものづくりに没頭する母娘

娘のオクサナさんと修道院に避難してきたナージャさん。裁縫や陶芸が得意で、以前はデザイナーとして働いていたといいます。ルハンスク州にある自宅の庭には、自作の陶器の置物がいくつも置かれ、美しい木々や花を育てていました。そんな自宅が砲撃を受けて、今は避難生活を送っています。ここに来る前に滞在していたポーランドでも、ペン立てや花瓶、衣服などを手作りしていたそうです。

「スマホで悪いニュースがたくさん入ってくるでしょう? そういうものばかり見ていたら頭がおかしくなっちゃうから、ものづくりに励んでいるのよ」と笑顔で話し、作品の実物や写真を見せてくれたナージャさん。辛い時だからこそ、気分が落ち込まないよう努めて明るく振舞っているのでしょう。その笑顔の裏に隠された思いを想像すると胸が痛みました。

インタビューを受けたナージャさんと娘のオクサナさんの写真

ナージャさん(左)と娘のオクサナさん

夫の35回目の誕生日を前に

「明日、私の夫は35回目の誕生日を迎えるはずだったんです。もう彼はいませんけれど……」。ぽつりとつぶやいたのは、29歳のカテリーナさん。東部ハルキウ州から4人の子どもと義母を連れて避難してきました。カテリーナさんたちが出発した3日後、夫のニコライさんもバスで避難してくるはずでした。ところが、ニコライさんはロシア軍に撃たれ、帰らぬ人となりました。「長男と次男は父親が亡くなったことを理解していますが、下の2人はまだ分かっていません。どう説明したらよいものか……」。

そう話すカテリーナさんの横で無邪気にはしゃぐ末っ子のエマちゃんは、先月3歳の誕生日を迎えたばかりです。まだ幼く、お父さんを亡くしたことを理解できないのも無理はありません。平和で穏やかな日々が突如として奪われ、ニコライさんもさぞ無念だったに違いありません。

カテリーナさんと抱きかかえられる女の子一人、男の子3人、親族の女性一人が写っている写真

修道院に身を寄せるカテリーナさんたち

事態終結の兆しが見えない中、ウクライナの人々が避難先で少しでも安心して暮らすためには、さらなる支援が必要です。遠く離れた日本の皆さまから届く温かいご支援は、現地の人々の大きな支えになっています。引き続き、AARのウクライナ人道支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。

ご支援のお願い

AARのウクライナ緊急支援への
ご協力をよろしくお願い申し上げます。

お申し込みはこちら

寄付の使途で「ウクライナ緊急支援」をお選びください

*日本外務省の海外安全情報(2023年4月現在)では、ウクライナは「レベル4:退避勧告」に該当しますが、AAR Japanは独自の情報収集に基づき、安全を確保して短期間入国することは可能と判断しました。AARは今後も万全の安全対策を講じながら、ウクライナ人道支援に取り組んでまいります。

東マリ子HIGASHI Marikoモルドバ事務所

大学でロシア語を専攻。商社や在ロシア日本大使館勤務の後、2021年にAAR入職。旧ソ連タジキスタン駐在を経て、2023年1月からモルドバ駐在員としてウクライナ事業を担当。

関連したレポート・ブログを読む

活動レポートTOP

すべての種類のレポート・ブログを見る

もくじ お探しのページはこちらから ページ
TOP