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スタッフ日記[国際協力の現場から]

私たち自身で国をつくる:シリア

2025年6月20日

2024年12月、中東シリアでアサド政権が崩壊しました。AAR Japan[難民を助ける会]が2014年から支援活動を行ってきた地域でも、難民・国内避難民として厳しい生活を送ってきた人々が故郷へ戻り始め、生活の再建に取り組む姿が見られるようになっています。帰還した人々は、故郷に戻れた喜びや希望を胸に抱く一方で、破壊しつくされた街を目の当たりにし、不安や戸惑いも感じています。電気は1日に数時間、水道は1週間に1回、食事は1日に1回だけというのも当たり前で、多くの子どもたちが学校に通えていません。AARの現地協力団体で、シリア帰還民への緊急支援に従事するハーリドさんがシリアの現状についてお伝えします。

支援チームの集合写真

支援チームのメンバー。前列左から4人目、サングラスをかけた男性がハーリドさん=2025年5月

この日を生きて迎えられた

建物の影に身をひそめていた私に老人が声をかけてきました。「どうしてそんなところに座っているのですか?」。「爆撃機から身を守るためです」と私が答えると、老人は穏やかに微笑んで言いました。「神のご加護のおかげで、そうした日々は終わりましたよ」。その日、半世紀以上にわたって独裁体制を続けてきたアサド政権が崩壊したのでした。

老人の穏やかな目を見て、私はふっと心の緊張が解けるのを感じました。この日を生きて迎えられたこと、そして、この国の未来を信じるような笑顔に出会えたことに、心から安堵しました。

内戦が終結してからも、シリア危機が始まった2011年当時の異常な状況を思い出すことがあります。爆撃から逃れてきた家族にサンドイッチを配った、公園で夜を明かした、それだけで刑務所に入れられるような状況でした。街全体が「死の収容所」と呼ばれたセドナヤ刑務所となってしまったかのように、人々は恐怖に怯える日々を過ごしていました。

がれきの中を歩く子どもの写真

長期の内戦で破壊し尽くされた街かど=シリア国内で2025年4月

国内避難民となった人々に支援を届けながら、私はメディア活動家として街の状況やそこで生きる人々の様子を写真や動画に記録し続けてきました。この国の惨状を知らない人々に伝えたいと思ったからです。しかし、撮影した映像は公開できるようなものではありませんでした。爆撃を受けたアパートや学校や病院。街は無惨に破壊され、痛々しいものでした。胸が張り裂けそうなほどに悲しく、辛い記録でした。

私たちも国を再建できる

しかし私は同時に、破壊された故郷に暮らしと生命を取り戻したいと強く願う人々も大勢見てきました。私たちシリア人は平和を愛し、生命を愛し、労働を愛しています。「平和と安全以外に何も望まない。私たち自身で国をつくる」という言葉を、私は戦場で耳にしてきました。第二次世界大戦の惨状から復興を成し遂げ、世界の主要国となった日本のように、私たちもきっと国を再建できると信じています。

内戦が終結して現在の暫定政権に移行したことで、私たちの支援活動は格段にやりやすくなりました。政府は私たちの活動に協力的で、施設の提供や様々な手続きなど、実務的な面でも支えとなっています。腐敗が深刻だった前政権では、国際援助の支援物資が軍や闇市に流れてしまうこともあり、人々は支援自体に不信感を抱いていました。

しかし、最近では国際機関や市民社会組織への信頼が回復してきていると感じます。2025年4月から5月にかけて、私たちはAARと連携して、約14,000人(2,800世帯)に食料や衛生用品を配付しました。これは、私がこれまでに携わった物資配付の中で最大規模のものでした。配付後、本当に多くの感謝のメッセージが私たちの元に届けられました。

また、人々の間に、他者を思いやる余裕が生まれてきていることも感じます。私たちの活動地域には、寡婦や孤児、障がい者など困難な状況に置かれた人々が多く暮らしています。私たちは限られた予算の中で検討を重ね、今回は障がい者世帯を中心に支援を届けることにしました。

支援対象とならなかった人々の多くは静かに敬意を示し、「自分たちよりも、今はその人たちが優先されるべきだ」と理解を示してくれました。そして別れ際に、「もしまたの機会があれば、私たちのこともどうか忘れないでいてほしい」と付け加えました。

受益者からのメッセージ

支援チームに寄せられたメッセージ

私たちの人生は何があっても続く

内戦が終結した後も、シリアではすべての人々が傷付き、それぞれの困難を抱えています。そんな中でも、異なる宗教や宗派の人たちが「公平とは何か」と考え、問題を起こすことなく支援を受け取り、ともに暮らしています。

依然として紛争の脅威が身近にあることに変わりはありません。上空でイスラエルの偵察機の音が聞こえることもあります。そんな時、私たちは会話を止め、しばらくの間沈黙が流れます。そして偵察機の音が遠ざかると、私たちは何事もなかったかのように再び話し始めます。「私たちの人生はどんなことがあっても続くし、誰にも止められない」とでもいうかのように。

廃墟が残る街の写真

がれきが残る街を歩く人々=2025年4月

内戦で使用された化学兵器の影響で、先天性の障がいがある子どもが増える可能性も指摘されています。今後、このような紛争の傷跡が様々なところで表面化してくるでしょう。

内戦が始まったあの悪夢のような2011年に戻ったら、と考えることがあります。私は、「もう一度、人々を助ける活動をするだろう」と、いつも同じ結論にたどり着きます。私は、同胞のシリア人々を愛し、これからも思いを新たに支援を続けていきます。それこそが、私自身が存在する意味であり、私自身をも満たしてくれるからです。

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