解説コーナー Commentary

コンゴ難民問題 ―1990年代から続く激しい紛争

2021年8月2日

豊富な天然資源争奪も背景に

アフリカ東部のコンゴ民主共和国(DRC)では、独裁体制にあったモブツ大統領が1997年に退陣して以降、ルワンダのジェノサイドを逃れてDRCに居住していた難民や武装勢力などから成る反政府勢力が台頭しました。ジンバブエ、アンゴラ、ウガンダ、ルワンダなど、DRCの周辺各国がそれぞれ政府勢力と反政府勢力を支援した結果、国内は紛争状態に陥り、多くの市民が殺害されました。特にウガンダと国境を接するDRC東部では紛争が激化して虐殺、奪略、強姦が頻発し、多くの人々が難民として隣国ウガンダやルワンダ、ブルンジなどへ逃れました。

2010年代に入ってもDRC東部のイトゥリ州、北キブ州では武装勢力による武力衝突が続き、民間人も標的となって数千人もの人々が命を落としたと言われています*1。DRC国内の避難民の数は520万人にのぼるほか*2、約95万人*3がウガンダをはじめとする周辺国に難民として逃れ、人々は厳しい生活を強いられています。DRCでは、同国政府の思惑および周辺各国の介入による政府と反政府勢力の対立、豊富な天然資源を巡る武力勢力同士の争いに加え、エボラウイルス病など致死率の高い感染症も散発的に発生しています。武装勢力による感染症治療拠点病院の襲撃や略奪も続き、DRC国内情勢は混迷を極めています。

ポリタンクボトルに入った水を運ぶ子ども3人

チャングワリ難民居住地のコンゴ難民の子どもたち

隣国ウガンダに難民150万人

ウガンダは2021年5月現在、約150万人*4の難民を受け入れています。ウガンダでは2000年代まで北部で内戦が続き、ウガンダから逃れた難民を周辺各国が受け入れていました。その後、ウガンダ国内の状況が安定すると、ウガンダは難民を受け入れる側になり、現在アフリカ大陸で最大の難民受け入れ国となっています。ウガンダに居住する難民のうち、DRC難民は約43万人*5を占めます。南スーダンからの難民も多く、南スーダン難民約92万人のほか、ブルンジ難民約5万人、ソマリア難民約5万人などが居住しています。*6

ウガンダ政府は「Non-Encampment Policy」といって、難民をキャンプに収容するのではなく、もともとウガンダ住民が居住していた場所に難民を住まわせる政策をとっています。その背景には、難民に対するウガンダの博愛精神*7や難民の社会活動参加による経済成長への期待があります。難民はウガンダ国内を自由に移動したり、ウガンダ人と一緒に教育を受けたりできるだけでなく、就労や起業も認められています。しかし、多くの難民は自国で激化した紛争から逃れるため、財産を手放し、親類と離れ離れになってウガンダに逃れてきた人々で、貧しさから子どもを学校に通わせることができず、仕事を始める元手になる資金がない人も多くいます。また、DRCでは主にスワヒリ語が使用されている一方、ウガンダの公用語は英語なので、DRC難民は言語の面でも困難を抱えながら日常生活を送っています。DRC難民が多く居住する地域は国境に近いウガンダ西部の地域に5カ所あります。難民居住地では、国際機関、海外や地元のNGOが教育、水衛生、保護、保健、生計向上などの分野で支援を続けています。

居住地の教育環境を改善

AAR JapanはDRC難民の流入が増大した2019年、ウガンダの難民居住地で調査を実施し、2020年4月に教育分野で支援を開始しました。DRC難民居住地では難民の急速な流入によって学校が不足しています。1教室あたりの児童数が100人以上という小学校もあり、もともと通学していたウガンダの子どもたちにも影響を与えています。AARは難民居住地のひとつチャングワリ難民居住地の小学校で教室の建設を進め、2021年1月までに9つの教室を建設しました。また、児童の急激な増加を受けて、国連機関や地元NGOが教員を手配したものの、教員の宿泊施設がなく、学校まで数時間をかけて通勤する教員がいたり、教室にテントを張って寝泊まりしたりする状況があるため、AARは教室の建設と合わせて、教員用宿舎18室を建設しました。

難民の中には、経済的に困窮して子どもを通学させられなかったり、女子教育への理解が乏しく女子の通学を認めなかったりする家庭もあります。女子児童自身も家事の手伝いで学校を休みがちになり、勉強についていけずに中途退学してしまうことが少なくありません。AARは子どもたち一人ひとりが最低限の教育を受けられるように、学用品の配付、女子教育推進のための保護者への啓発活動のほか、子どもたちにとって学校が楽しくなるような校内クラブ活動を教員や保護者とともに実施しています。学校はこれから子どもたちが長い人生を生きていくための術を身につける場所であり、友情を育み、学ぶことの楽しさを見出す場所でもあります。教育からとり残される子どもをひとりでも減らすために、継続した支援が求められています。

男の子二人とそのお母さんが家の中で一緒に座っている。

ウガンダ西部のチャングワリ難民居住地で暮らすコンゴ難民の親子

 

*1コンゴ民主共和国人権報告書2019年版
*2 The Democratic Republic of Congo Regional Refugee Response Plan January-December 2021
*3UNHCR Operational Data Portal
*4UNHCR Operational Data Portal
*5UNHCR Operational Data Portal
*6UNHCR Operational Data Portal
*7JICA 長期化難民状況における開発機関の果たす役割

 

 

北 朱美KITA Akemi東京事務局

臨床検査技師、タイの大学院留学を経てAAR入職。ザンビア、ミャンマー、パキスタン事務所駐在員を務めた後、2017年から東京事務局でウガンダ、スーダン事業を担当。

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