ミャンマーのイスラム少数民族ロヒンギャが2017年8月以降、国軍による無差別の武力弾圧を逃れて隣国バングラデシュに大量流入してから6年。本国帰還への期待が遠のく中、累計100万人超のロヒンギャ難民が暮らす難民キャンプ一帯は治安悪化が著しく、人々はますます追い詰められています。国際社会の関心がウクライナ危機に集中する一方で、忘れられつつあるロヒンギャ難民の今をお伝えします。
治安悪化に加え食料配給減
「最近キャンプで気になるのは、難民から『絶望的』という言葉をしばしば耳にすること。これまでになく人々の不安感が増しているように感じます」(人道支援関係者)。バングラデシュ南東部コックスバザール県に散在する難民キャンプでは、一部の犯罪集団による銃撃や抗争、難民のリーダーに対する恐喝や殺害、見せしめの放火などの暴力行為がエスカレートし、難民たちの不安は高まる一方です。あるNGO職員は「支援関係者の誘拐まで発生し、一時期は午後にはキャンプに入らないようにしていた」と話します。
新型コロナウイルス感染の影響で支援活動が長期間停滞したのに加え、難民の苦境に追い打ちを掛けたのが、国連世界食糧計画(WFP)が資金不足を理由に今年3 月、食料引換券(バウチャー)を一人当たり月額12 ドルから10 ドルに、6 月にはさらに8 ドルに大幅減額したこと。「子どもの栄養失調が深刻化しているだけでなく、食料をやり繰りするために児童労働や児童婚の強要、犯罪行為が増えることが懸念される」(WFP担当官)。
医療関係者は「抑うつ症状や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、メンタル面の問題を抱える難民は少なくない」と指摘します。2021年2月の非常事態宣言の発令でミャンマーの民主化の流れが途絶えたことで、本国帰還がほぼ絶望的になる中、密航業者の手引きでマレーシアなどに渡航しようとする難民も増加していますが、途中で失敗してキャンプに戻って来た人もいると言います。
難民が集う多目的施設を運営
AAR Japan[難民を助ける会]は2017年末以降、難民キャンプで井戸・トイレの建設のほか、子どもたちの活動施設チャイルド・フレンドリー・スペース(CFS)、女性のためのウーマン・フレンドリー・スペース(WFS)を開設・運営してきました。今年からは国際NGO「Terre des hommes」(本部スイス)と連携し、これらの施設を女性と子ども、若者たちのための多目的施設として引き続き運営しています。
事態の長期化に伴い、バングラデシュ政府はキャンプで人道支援にあたる団体を限定したり、キャンプへの入域を制限したりと厳格な管理を敷いています。外部の「目」が少なくなることが、治安の悪化に拍車をかけており、誰もが安心した生活を送れるようにプロテクション(保護)分野の支援が強く求められています。
この多目的施設は難民キャンプだけでなく、難民を受け入れている地域住民にも開放し、従来の女性や子どもに加えて、これまで支援の少なかった若者も対象として、安心した生活を送れるように啓発活動や個別支援を行います。
若者が主導してさまざまな問題を解決する活動には、16~25歳の男女400人が参加。児童婚の予防、女子教育、違法薬物の問題などをテーマにワークショップを開催し、参加者がミニドラマやギャラリー展示を行って理解を深めています。
また、健康や水衛生、防災など幅広いテーマを扱う地域住民への啓発活動、性暴力の被害者支援、子どもたちの歌や図画工作のプログラムなどを実施し、2023年3月以降のべ1,000人が参加しています。
メンタルヘルスケアのワークショップに参加した男性は、「従来のように有給ボランティアとして現金収入を得る機会がなくなり、イライラすることがありましたが、AARのセッションに参加して自分の心の状態を見詰め直すことができました」と話します。
ロヒンギャ難民問題は解決の糸口が見えないまま、国際社会の関心が薄れ、キャンプでの生活は厳しさを増しています。自分たちが半ば忘れられつつあること、支援が先細りしていることを難民たちは敏感に感じ取っています。さらなる長期化は必至な状況だけに、支援を決して途絶えさせないことが何より重要です。引き続き、AARのロヒンギャ難民支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。
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