活動レポート Report

ロヒンギャ難民を支え続ける:バングラデシュ

2023年3月16日

ミャンマーのイスラム少数民族ロヒンギャが2017年、激しい武力弾圧を逃れ、隣国バングラデシュに大量流入して5年数カ月が経ちます。AAR Japan[難民を助ける会]は同年末以降、累計100万人超のロヒンギャ難民が暮らす同国南東部コックスバザールで、水・衛生改善事業、女性や子どもの活動施設の運営などの支援活動に取り組んできました。2023年度からは新たに国際NGO「Terre des hommes」(本部スイス)との連携を通じて、子どもや若者たちのための多目的施設を運営します。AARコックスバザール事務所の宮地佳那子が報告します。

AARが運営する施設で黒板に自分の名前を書く子どもたちの写真

AARが運営する施設で黒板に自分の名前を書く子どもたち

コックスバザールには2017年8月25日以降、70万人を超えるロヒンギャ難民が流入しました。AARは同年末にコックスバザール事務所を開設し、毛布や子ども服などを緊急配付したのに続いて、難民キャンプに多数の井戸やトイレ、水浴び室を設置。2018年末には現地協力団体とともに、女性と子どものための活動施設をそれぞれ2カ所ずつ開設し、何かと危険が多いキャンプの中で安心して過ごせる場所を提供しました。

難民キャンプで井戸の修理技術を習う男性たちの写真

難民キャンプで井戸の修理技術を習う男性たち

女性の施設は、手工芸活動や日常的な交流の場として日々活用されたほか、武力弾圧の過酷な経験や夫からの暴力などに苦しむ女性へのカウンセリング・個別支援を行ってきました。子どもたちの施設では、年齢に応じて図画工作やゲーム、ミャンマー(ビルマ)語と英語の読み書き教室などのプログラムを通じて、子どもたちが同世代の仲間と楽しく過ごせるようにサポートしました。

ミャンマーへの帰還が見込めず、避難生活が長期化する中、AARは他の支援団体と同じく、知識や技術の向上といった難民自身のエンパワーメント(能力強化)に力を入れてきました。男性たちの井戸の修理技術、女性たちの裁縫の研修はその一例です。ボランティアとして井戸修理に取り組む男性が道具を並べて説明してくれたり、AARの施設に通う女性が自分で飼っている鶏を見せてくれたりした時の、それぞれ満足そうな笑顔がとても印象に残っています。

AARが運営する施設でミシンを使って布マスクを縫う女性の写真

AARが運営する施設でミシンを使って布マスクを縫う女性

その一方で、こうした研修後の知識や技術の維持・向上は難しい課題です。難民キャンプでは教育を受ける権利、働いて収入を得る権利、キャンプ外への移動の権利など、基本的な権利が大きく制限されています。例えば「裁縫をしたくても道具や材料を揃えるおカネがなく、たとえおカネがあったとしても、キャンプ外の店に行くことが許されていない」「個々の井戸はそれぞれ国連機関やNGOから管理を義務付けられているため、すぐ近くの井戸が壊れていても自発的に修理できない」といった声が聞かれます。私たちもできる限り希望をかなえられるように工夫しましたが、残念ながら限界がありました。

それでも、最近はエンパワーメントのための基盤が少しずつできていくのを感じます。特に大切なのは教育です。難民キャンプで暮らすロヒンギャは子どもの割合が高い(2023年1月末時点で18歳未満は52%)のですが、これまでキャンプでは公教育を受ける機会がありませんでした。しかし2022年以降、国連児童基金(UNICEF)が主導して、初等教育の体制が整いつつあります。AARの活動施設を利用する女の子のひとりは「きちんと勉強して将来は医者になりたい」と話します。子どもたちの未来のために、初等教育、そして中等・高等教育が受けられる環境が一日も早く整備されることを祈っています。

AARは2018年に開設した子どもの活動施設を「Terre des hommes」に引き継ぎ、資金提供を通じて運営を継続します。施設は今後、女性と子どもだけでなく、これまで総じて支援が少なかった若者(10代男性)へのサポートを含めて、より幅広い層が参画する多目的施設として活用されます。

AAR Japanは現地協力団体と連携して、ロヒンギャ難民支援に引き続き取り組んでまいります。今後とも皆さまのご理解・ご協力をお願い申し上げます。

宮地 佳那子MIYACHI Kanakoバングラデシュ・コックスバザール事務所

女性の健康と権利の推進に取り組むNGOでの勤務、夜間大学院生を経て、2019年にAAR入職。ロヒンギャ難民支援に取り組む。

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