活動レポート Report

パキスタン:正しい知識と習慣で健康的な生活を

2019年3月26日

3月22日は世界水の日。AAR Japan[難民を助ける会]が水衛生事業を行うパキスタンでは、どのような課題があるのでしょうか。AARが取り組む活動を、パキスタン事務所のシャヒダ・パルビーンが報告します。

深刻な水の問題

パキスタンの主な産業は、水を大量に消費する農業※1です。国際通貨基金(IMF)の報告によると、年間の水使用量は世界で4番目に多いと言われています。一方、世界で3番目に深刻な水不足に直面しているとの報道や※2、2025年までに大規模な干ばつに陥る恐れがあると警告されています※3。異常気象や猛暑、熱波など、さまざまな気候問題が相次いでいて、人々の命や生活を脅かすほどの洪水や水不足が発生しています。

パキスタンでは、日常に使う水の多くが安全性が保たれておらず、下痢や肝炎の原因になっています。さらに、水不足や不衛生な環境は、健康面や経済発展だけでなく教育面にも悪影響をもたらしています。多くの公立学校に、手洗い場やトイレなどの基本的な衛生設備が設置されていないことが一因です。

2016年から19年にAARがパキスタン北西部の37の学校で実施した調査では、汚れた水を飲んで下痢を引き起こしたり、在校中ずっとトイレを我慢して体調不良になったりと、水環境が原因で子どもたちの学習時間が奪われていることが判明しました。

行動と習慣を変えることから

こうした状況を改善するため、AARは2016年からパキスタンのハイバル・パフトゥンハー州内の小学校の衛生設備を整備しています。トイレや井戸、手洗い場などの設備を修繕、新設し、児童の就学率や出席率の向上、中退率の低下を図っています。

「きれいに手を洗ったよ」と誇らしげに両手を見せる子どもたち(2019年3月14日、パキスタン・ハイバルパフトゥンハー州のダラ小学校)

児童の生活習慣を調査すると、施設を整備する物理的な支援だけでなく、衛生に関して正しく理解し、知識を定着させることが必要だと分かりました。AARは、まず教員や保護者会、参加を希望した母親たちに4日間の研修を行いました。AARの支援が終了した後も、教員や親が正しい知識を子どもたちに伝えられるようにするためです。

研修では、正しい手洗いや歯磨きの仕方、清潔な水や環境についての基本的な知識を伝え、ディスカッションを行いました。ディスカッションでは、参加者が安全だと思っていた井戸水が実際にはそうとは限らないこと、不衛生な水を摂取することで下痢や肝炎、チフスなどの感染症にかかること、家庭でできる水の浄化方法などについて確認しました。

研修に参加したある母親は、「これまでの習慣が子どもたちの健康に悪影響だったなんて、考えてもみませんでした。手を洗ったり、水を安全に飲める状態にしたり、日々の小さな積み重ねで改善できることが分かりました」と話してくれました。

また、母親向けに行った月経時の適切なケアについてのセッションも好評でした。パキスタンでは、女性がこうした話題を自由に話せない文化があり、多くが月経時にシャワーを浴びてはいけないと信じ、不衛生な状態で過ごしていました。参加者からは「娘たちにも伝えて、私たちと同じような間違いをしないようにしたい」との声が上がりました。

水衛生についての研修後、確認テストに取り組む児童の母親たち(2018年11月15日)

研修終了後、参加者に修了証と衛生キット(バケツ、タオル、せっけん、爪切り、くしなど)を手渡すAAR現地スタッフのシャヒダ・パルビーン(左、2018年11月4日)

衛生啓発キャンペーンを通して

教員や保護者への研修後、AARは教員と一緒に、小学校3年生から5年生を対象にした衛生啓発キャンペーンを行いました。正しい手洗いの方法や歯磨きの仕方、水の浄化方法を伝え、環境を清潔に保つことの重要性の理解と定着を目指しました。 児童たちは、キャンペーンで知ったことを楽しそうに実践し始め、積極的に歯を磨いたり、手を洗ったり、教室や校庭でゴミを拾ったりするようになりました。 印象的だったのは、彼らが学んだことを家族にも伝えていたことです。プラ・ガリ校の先生は、「ある児童の家庭を訪問する機会がありました。6人兄弟姉妹のうち2人が当校に通っていたのですが、ほかの兄弟姉妹も全員が手をきれいに洗ったり、歯を磨いているのを目にしました。キャンペーンの前に訪問したときはそんなことありませんでしたが、子どもたちは正しい生活習慣を理解し、家族にまで伝えるようになったんです」と話してくれました。

衛生啓発キャンペーンで、大きなバケツに水を入れて、正しい手洗い方法を披露する児童(2019年1月13日)

キャンペーン中に受け取った、衛生啓発について書かれたステッカーを手にする児童たち(2019年1月11日)

全校児童が夢中になって披露

児童が充分に衛生知識を身につけたかを確認するキッズコンテストは、彼らの積極性を高めることにもつながりました。全校児童が夢中になってスピーチや寸劇、実演などさまざまな手法で身に着けた知識を披露する姿は、とても輝いていました。衛生キット(歯ブラシと歯磨き粉)を配ると、子どもたちのはじけるような笑顔があふれました。

キッズコンテストで歯磨きの方法を披露する子どもたち(2019年1月29日)

キッズコンテストで配付した歯ブラシと歯磨き粉を手に笑顔を見せる子どもたち(2019年2月8日)

学校に水衛生施設ができたことや、身の回りの変化について嬉しそうに語るアミーナ・ビビさん(11歳)

小学校4年生のアミーナ・ビビさん(11才)は、身の周りの変化について話してくれました。 「これまでは学校で不衛生な水を飲んだり、水のないトイレを使うしかなかったので、学校に衛生設備ができたときはとっても嬉しかったです。衛生キャンペーンで正しい知識を学んでからは、家でお湯を沸かすようになりました。お母さんに、水をそのまま飲むことが下痢や嘔吐の原因になることを伝えたら、お湯を沸かす大切さを理解してくれました。今、私はしっかり手を洗ったり、歯を磨いたりと清潔にすることで、自分への感染だけではなく、人への感染も防いでいます」と、嬉しそうに話す様子が印象的でした。

一人でも多くが健康的な生活を送れるように

ある公立校の校長先生は、「当校の強みが増えた」と胸を張ります。衛生啓発キャンペーンの実施前は、教員が保護者に環境を清潔に保つことの大切さを訴えても、「学校の環境維持は、子どもたちがするべきことではない」と、理解を得られなかったと言います。しかし、教員や保護者会を対象にした研修や、衛生啓発キャンペーンを行ってからは、清潔さを保つことの意義に理解を示されるようになりました。家庭での教育もあってか、子どもたちは教室のゴミ箱やトイレをきれい使うようになったり、手洗いや歯磨きをきちんとするになったのです。 「キッズコンテストが終わって間もなく、スピーチや詩を朗読する大会がありました。以前は人前に出るのを恥ずかしがっていた子たちが、これまで見たことのないほど発表を楽しんでいたのです」と、校長先生は事業の思わぬ副次効果についても話してくれました。
AARは、パキスタンで10年近くにわたって水衛生事業を行い、感染症の予防や学校環境の改善に取り組んでいます。一人でも多くが健康的な生活を送れるよう、今後も事業に尽力してまいります。
この活動は、皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力、 TOTO水環境基金の助成を受けて実施しています。
※1 世界の多くの国が、農業に多くの水を消費しています。参照:国土交通省水資源に関する世界の現状、日本の現状 http://www.mlit.go.jp/common/001020285.pdf
※2 参照:THE EXPRESS TRIBUNE、Pakistan ranks third among countries facing water shortage https://tribune.com.pk/story/1667420/1-pakistan-ranks-third-among-countries-facing-water-shortage/
※3 参照:INTERNATIONAL THE NEWS、Water crisis:Why is Pakistan Running dry? https://www.thenews.com.pk/print/326969-water-crisis-why-is-pakistan-running-dry

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