活動レポート Report

足りない教室 遠い学び舎:サヘル・ローズさんウガンダ訪問記2

2024年3月11日

サヘル・ローズさんと現地の子どもたち

チャングワリ難民居住地のモンバサ初等教育校で子どもたちに囲まれるサヘルさん=ウガンダ西部で2024年2月21日撮影

難民受け入れ地域にも課題

「難民だけではなくて、その受け入れ地域の人たちも生活が苦しい。一部は難民以上に厳しい環境にあるなんて……その現実に驚きました」。ウガンダ西部のチャングワリ難民居住地近くにあるブトーレ初等教育校、チャングワリ・シード中等教育校を訪問したサヘルさんはショックを受けた様子でした。

狭い教室で大勢の子どもたちが授業を受けている写真

生徒でいっぱいのチャングワリ・シード校の1年生(日本の中学2年生相当)の教室=2024年2月20日撮影

チャングワリ・シード中等教育校では、間借りの校舎の中で、新入生がびっしり詰まって授業を受けていました。教室には電気がないため薄暗く、目を悪くしそうです。黒板も小さく、1平方メートル四方ほどしかありません。どの生徒のノートも、他の生徒のノートと重なり合っています。生徒がはみ出して、廊下に机を並べているクラスもありました。

この学校は現校長が2022年に自ら設立しました。周辺には学費の高い私立中等教育校しかなく、勉強を続けられない子どもが多数いるのは問題だと考えたからです。現在約100人の生徒が通学していますが、正式な教員は校長一人だけ。あとは非常勤の教員です。

「教育は決してあなたを裏切らない」

校庭の片隅で、サヘルさんは生徒たちに、自分はイラン人であり、戦争で孤児になって今の母親に引き取ってもらい、日本に来たことを語りました。

「私は日本語がよく分からなくて、成績はずっと悪かった。それでも母を助けたくて、たくさんアルバイトをしてきました。高校は定時制。その高校からは何十年も1人の大学進学者もいなかった。『お前が大学なんて行けるはずがない』と言われたけれど、応援してくれる先生がいて、必死の思いで勉強して大学に進み、卒業しました。その先に今の私がいます。願いの全てはかなわない。あなたたちだって、大学には進学できないかもしれない。人生はそれほど厳しい。でも教育はあなたを裏切らない。学んだことは必ず役に立つ。なりたい自分をしっかりとイメージして、それを見失わないで学び続けてほしい」。

大勢の生徒と対話するサヘル・ローズさん

サヘルさんの話に耳を傾けるチャングワリ・シード中等教育校の生徒たち=2024年2月20日撮影

生徒を代表して、エマニュエルさん(19歳)が「いつも文房具など必要な支援をいただき、ありがとうございます。今日は遠く日本から来て話をしてくださって、ありがとうございました。話を聞いて分かったのは、孤児だからと言って成功できないわけではないということ。大統領でも医師でも、何か重要な仕事をすることだってできる。だからみんな、困難はたくさんあるけれど、努力して勉強を続けよう」と立派な挨拶をしてくれました。

エマニュエルさんと聴衆の写真

生徒代表として挨拶するエマニュエルさん=チャングワリ・シード中等教育校

実はエマニュエルさんにも両親がいません。祖父と妹の3人で暮らしていましたが、新型コロナアウイルスに感染して祖父が亡くなり、妹は食べるために家政婦として町に働きに出たまま、音信不通になってしまいました。電気も水道もない小さな家で、エマニュエルさんは一人で暮らしています。家に案内してくれましたが、とても遠くて通学が大変なこと、校長先生の援助で学校を続けていること、盗難に遭ったこともあって夜は一人で寂しく不安なこと……そんな話をしてくれました。

エマニュエルさんの自宅

サヘルさん(左)たちを自宅に案内するエマニュエルさん(右)

学校保護委員会設立をサポート

AARは学校の教員、地域のリーダーや保護者でつくる「学校保護委員会」の設置・運営を支援しています。エマニュエルさんのように勉強を続けるのが難しい児童・生徒を把握し、ひとり一人の相談に乗って個別に支援するためです。保護委員から連絡を受け、AAR職員が子どもたちのカウンセリングを担当することもあります。保護委員は教員2人、地域の住民6人で構成され、メンバーにはAARが研修を行って、子どもには教育を受ける権利があることや早期結婚・妊娠の問題などを地域で啓発してもらっています。

AARは文房具配付や施設整備、保護委員会設置の支援を、難民居住地の学校だけでなく、その受け入れ地域でも展開しています。同じように困難な状況にあるのに、難民だけに支援が偏れば、不公平感がつのり、やがて亀裂を生んでしまうからです。

サヘルさんには学校保護委員会と地域の保護者の集まりにも出席していただきました。ある父親は「子どもを学校に行かせたいが、靴を買うお金も制服を買うカネもない。どうしろというんだ」と訴えました。サヘルさんが「ちゃんとした格好で学校に行かせたい親の気持ちは分かる。でも裸足で学校に来ている子どももいます。まずは親が、その子の学びたいという気持ちを応援してほしい。私も一時は母と2人で公園で暮らすほど苦しい暮らしをしたが、母は教育を受ければこの子は絶対に立派な人間になると信じて、私を学校に行かせてくれた。どうかみなさんもお子さんの可能性を信じてほしい」と訴えました。何人もの母親がうなずいていました。

やはり難民受け入れ地域にあるブトーレ初等教育校には2023年9月、学校側の希望でAARがフェンスを作りました。学校は幹線道路に面しており、時折大型車両が猛スピードで走ってきます。また不審者が侵入して子どもに話しかけるなどの危険もあることから強い要望がありました。フェンスの保守管理にも保護委員会が協力し、きれいに草が刈られています。

満員の中等教育校女子寮

施設の不足は、あちこちで見られます。例えば、チャングワリ難民居住区内で、唯一の公立中学校であるチャングワリ中等教育校も1教室あたりの生徒数が90人近くいます。そもそも問題なのは広い居住地で公立中等教育校が1校しかなく、公共交通機関もないため、多くの子どもたちが通って来られないことです。生徒の多くが寮に入る必要があり、定員112人の女子寮には、現在約160人が寄宿しています。さらに多数の生徒が入寮を希望しています。

女子寮内部の写真

2段ベットがぎっしり並んだチャングワリ中等教育校の女子寮。私物を保管するスペースがなく、青い箱がタンス替わり=2024年2月22日撮影

女子寮を案内してもらうと、部屋には2段ベッドがずらりと並んでいました。ひとつのベッドに2人(つまり2段ベットで計4人)が寝ているところもあるそうです。着替えなど荷物を置くスペースもなく、ベッドの手すりにはたくさんの服がかけられていました。食堂もないため、食事はベッドや床の上でしています。予習、復習どころか落ち着いて生活できる環境ではありません。

またトイレの数が160人に対して5つと少なく、とても足りません。トイレは穴の中に排泄する「落下式」ですが、周囲を掃除しようにも水が限られているため不衛生な状態になってしまっています。トイレの数や衛生状態については、ここだけでなく多くの学校で課題として挙げられていました。女の子が生理を迎えると学校に来なくなる一因にもなっています。

(つづく)

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AARは2024年度、チャングワリ中等教育校に女子寮1棟(定員66人)、女子トイレと水浴び場、それらの維持管理用の水を確保するための井戸を建設します。女子トイレと水浴び場、井戸は、トイレ・風呂などの機器製造メーカーTOTO(本社・北九州市)の資金提供で実施されます。このほか教室用の建物1棟(3教室)の建設を目指し、資金を一括して寄付していただく「まるごとプロジェクト」として、計900万円(300万円×3教室)を募集しましたが、2023年度末までの達成が難しく、計画を変更する見込みです。「まるごとプロジェクト」は2024年度も実施します。どうぞご協力をお願いいたします。

まるごとプロジェクト募金2023

太田 阿利佐OHTA Arisa

全国紙記者を経て、2022年6月からAAR東京事務局で広報業務を担当。

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