AAR Japan[難民を助ける会]は東南アジアの内陸国ラオスで2000年以降、一貫して障がい者支援を続けています。このうち約15年間、現地で事業を担当してきたビエンチャン事務所駐在代表の岡山典靖が、四半世紀におよぶ活動を振り返り、今後の課題について報告します。
初めての「国産車いす」製造
AARは2000年12月、隣国カンボジアに続いてラオスでも車いすを製造し、障がい者に無償提供する事業を開始しました。同国内では当時、車いすは作られておらず、隣国から取り寄せるか、福祉団体を通じて海外から寄贈される中古車いすを使っていました。しかし、輸入車いすは高価で身体に合ったものを見つけにくく、故障しても交換部品が手に入らず修理が難しいといった課題がありました。
そこで、AARはラオス保健省管轄の国立リハビリテーションセンターと共同で首都ビエンチャンに工房を設立し、日本から専門家を招いて車いすの製造方法、一人ひとりの障がい者に合わせるための身体測定方法などを指導しました。併せて、より長距離を移動できる「手漕ぎ三輪車」の製造にも取り組みました。
工房が軌道に乗った2011年頃には年間約500台を製造し、全国の利用者へ届ける体制が整いました。継続的に車いすや三輪車の製造費用を支援してくれる団体も見つかり、車いす工房の運営は国立リハビリテーションセンターへと移管されました。
障がい者の在宅起業を応援
車いす事業に取り組む中で、働き盛りなのに就労機会に恵まれず、家で過ごす障がい者と数多く接しました。ラオスでは障がい者の就労先は少なく、特に農村部ではその傾向が顕著です。そんな厳しい状況にあって、工房で作った手漕ぎ三輪車を利用する男性のひとりは、自宅で床屋を開業していました。私は彼の姿に感銘を受け、障がい者が自宅で取り組める生計支援事業を新たに始めることにしました。
2012年に立ち上げたで事業は、ビエンチャンと周辺地域で起業意欲のある障がい者を対象に、キノコやナマズ、カエル、コオロギ(いずれも食用)の育て方を指導し、それぞれの自宅に栽培・養殖場を整備しました。こうした仕事は、少ない投資と自宅スペースで始めることができて、力が要る重労働を伴わず、現金収入に結び付きやすいという利点があります。2024年までに支援したのは約600世帯に上り、約8割が継続的な収入を得ていることが確認されました。
改良型手漕ぎ三輪車の開発へ
2024年4月のこと、私は出張先の台湾で訪れた福祉用品の見本市で、軽く手でペダルを押すだけで前に進む優れた手漕ぎ三輪車を見つけました。ラオスでも現在、AARが導入した手漕ぎ三輪車が広く普及しており、ビエンチャンの街角でも、後ろのカゴに商品を載せて行商をする人などを見かけます。しかし、この三輪車は車軸と直接つながったレバーを前後に動かして進むため、かなりの力が必要で、高齢者や女性が乗りこなすのは困難です。三輪車利用者を対象とした当会の調査では、約7割の人が「毎日使っている」と回答する一方、「自力で長い距離を移動できる」と答えた人は約3割に留まっていました。
台湾で試乗した三輪車は自転車のようにペダルとチェーンで動力を伝えるため、レバー式と比べて圧倒的に軽い力で進むことができます。この駆動方式なら高齢者や女性でも使いやすいはず――。私はラオスに帰国後、国立リハビリテーションセンターの工房を訪ね、チェーン式の手漕ぎ三輪車の製造を提案しました。工房側も賛成してくれて、2025年から日本の専門家を招聘してチェーン式を試作し、量産を目指すことになりました。
AARのビエンチャン事務所開設から四半世紀、一貫して取り組んできた障がい者支援事業、1年や2年では成果が出ないことがほとんどです。しかし、息の長い関わりを続けていると、着実に社会に良い変化が表れていることが確認できます。多くの障がいがある人たちが自らの意志で自由に移動し、やりたいことができるように、新たな事業にも粘り強く取り組んでいきたいと思います。
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岡山典靖OKAYAMA Noriyasuビエンチャン事務所駐在代表
釣り好きが高じて国立大学水産学部で魚の生態を研究。バングラデシュ、ネパールなどで水産養殖業振興や農村開発に従事した後、2004年にAAR入職。