AAR Japan[難民を助ける会]は、パキスタンのハイバル・パフトゥンハー州の山間部で、障がいのある子どもたちが合理的な配慮を受けながら地元の学校に通うための環境づくりを進めています。この活動では、学校だけでなく地域社会を巻き込むことにも重点を置き、「障がい当事者による障がい児の家庭訪問」と、「障がい者リーダーの育成」を行なっています。それぞれの活動について、イスラマバード事務所の小柳勇人が報告します。
AARが活動を行っているハイバル・パフトゥンハー州アボタバード郡。同郡の西南に隣接するのがハリプール郡。
障がいの悩み「同じ立場」で傾聴
事業地のハイバル・パフトゥンハー州アボタバード郡とハリプール郡では、障がい児やその家族の多くが地域社会から孤立し、教育や公的支援を受ける機会を得られずにいます。AARは村々を訪ね、障がい児のいる家庭を見つけて訪問。子どもの就学や生活相談に乗り、公的支援の情報を伝える活動を続けています。

障がい児の家庭訪問を行う訪問ボランティアの女性(左から2人目)=ハリプール郡で2025年2月28日
家庭訪問では、活動に協力してくれる障がい者や、障がい児の保護者がボランティアとしてAARスタッフに同行してくれています。これまでの人生で、障がい当事者や家族としての困難や苦しみに直面してきた彼らがいるからこそ、私たちの活動は訪問先に受け入れられています。周囲の無知や偏見で悲しい思いをしてきた障がい児の親たちにとって、胸の内の葛藤や悩みを打ち明けるのは、本当に勇気がいること。「自分の話にちゃんと耳を傾けてくれるかな?」訪問先で出会う人たちは、そんな戸惑いや不安を見せつつ、少しずつ、想いを語ってくれます。
AARは、家庭ごとに異なる悩みや事情を聞き取りながら、支援している地元の学校への就学や、障がい者が公的サービスを受けるために必要な「障がい者証明」の取得を呼びかけています。ほとんどの人が障がい者証明の存在を知らず、知っていても、医師の診断など手続きに係る費用や移動の負担で申請をためらっています。AARはオンライン申請の活用を勧めるとともに、所管する行政に対して手続きの簡素化や経済的負担の軽減を働きかけています。

足が不自由な少年に、車いすの使い方を教える当会スタッフのムザンミール(写真手前左)=ハリプール郡で2024年12月18日
社会を変える「障がい者リーダー」を育成
パキスタンでは、全国各地に著名な障がい者がいて、政策提言やアクセシビリティの改善など、インクルーシブな社会づくりに向けた活動をしています。こうした人たちは、「障がい者リーダー」と呼ばれ、日本で障がい者運動や社会福祉政策などについて学んだ人も少なくありません。AARの現地職員のムザンミールも、環境衛生やフードサービスなどを手掛ける株式会社ダスキンが主催する「ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業」[1]を通じて日本で学んだ経験があり、現在はAARの仕事のほかに、各地の障がい関連シンポジウムで講演するなどの活動も行っています。
広大なパキスタンで、障がい者の権利や福祉を向上させるためには、地域で活動を牽引する障がい者リーダーの存在が欠かせません。AARは2024年から、こうした障がい者リーダーを育成するため、これまでに知り合った障がい者の中から希望者を募り、「リーダー」として活動するための研修を行なっています。研修では、自身の権利や社会に対して声を挙げることの大切さについて学び、話し合います。著名な障がい者リーダーを招き、各地で培った経験や知識を共有する機会も設けています。

リーダーシップ研修で障がい者の権利やリーダーシップについて学ぶ参加者=2024年9月27日
昨年9月以降、ハリプール郡とアボタバード郡で実施した研修には、計70人(男性47人、女性23人)が参加し、国連障害者権利条約[2]やパキスタンにおける障がい者の権利について学びました。参加者の一人で、低身長症の病気があるシャザディさん(27歳)は、中学卒業後、父親の反対により希望していた高校進学が叶わなかった経験を踏まえ、「研修を通じて、障がいのある私にも教育を受ける権利があったことがわかりました。父にそのことを伝えると、これまで身体障がいのある私には教育は必要ないと考えていた父が、教育の大切さに気付いてくれました」と話していました。
1948年に採択された世界人権宣言の第1条には、「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と記されています。この理念のもと、障がいのある人々が声を上げ、地域社会を少しずつ変えていくことが重要です。障がいの有無に関わらず、誰もが暮らしやすい社会を目指して、今後も取り組みを続けていきます。AARの障がい者支援にご協力くださいますよう、お願い申し上げます。
[1] ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業
[2] 国連障害者権利条約
ご支援のお願い
AARのパキスタンでの活動への
ご協力をよろしくお願い申し上げます。
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小柳 勇人OYANAGI Yutoパキスタン事務所
民間企業勤務や教員を経て2021年12月にAARに入職、2022年3月よりパキスタン・イスラマバード事務所駐在。