活動レポート Report

「インクルーシブ教育」に取り組む現場の声:パキスタンの学校訪問記

2025年6月26日

AAR Japan[難民を助ける会]は、パキスタンのハリプール郡とアボタバード郡にある10カ所の小学校で、障がいの有無にかかわらず子どもたちが一緒に学べる環境を整える、インクルーシブ教育に取り組んでいます。東京事務局の紺野誠二が、アボタバード郡の学校を訪問し、学校の様子や先生たちの取り組みを視察してきました。現場の声をお届けします。

教員との意見交換の様子

先生たちと意見交換をする紺野誠二(右)=アボタバード郡で2025年5月

熱意にあふれる先生や講師たち

アボタバードは、首都イスラマバードから高速道路を走って2時間半ほど。標高約1,300メートルに位置し、夏でも比較的涼しい気候に恵まれた山あいの地域です。AARは2023年から、この街の小学校で、バリアフリー設備の整備や教員研修、障がい児のいる家庭への生活・就学相談などに取り組んでいます。

久々に事業地の学校を訪問すると、「来るのを待ってたよ!」と、先生たちが出迎えてくれ、自作の教材や、障がいのある児童用の出席簿などを見せてくれました。「たくさん作りすぎた教材を家に置いていたら、妻に怒られた」とか、「この事業の虜になってしまって、知り合いの結婚式や会合などの行く先々で、『障がい児を就学させなさい』、と言っているんです」と語る先生たちがいて、とても熱意を感じました。

前回の訪問時に出会った車いすの児童のことを尋ねると、「今、2年生で元気にやってますよ」とのこと。世界のどの国でも、熱心な先生の指導のもと、児童がのびのびと学校生活を送っている様子を見ると、こちらも嬉しくなります。

児童とその家族、AAR紺野の写真

児童と交流する紺野誠二=アボタバード郡で2025年5月

AARが支援する学校では、障がいのある児童の学習を補助するため、点字や手話、知的障がい児への対応を専門とする外部講師も活躍しています。今回お会いした点字講師は、地元で生まれ育った視覚障がい者です。介助者である母親と学校に来て、視覚障がい児に点字を教えてくれています。

障がい児の保護者からすると、同じ立場から自分の子どもを理解してくれる地元の方が学校にいることは大きな安心でしょう。別の女性の講師は、「子どもたちとは、少しずつ信頼関係を築いています」と話していました。支援者はよく、「寄り添う」という表現を使いますが、なかなかそうすぐに関係性を構築できるものではありません。彼女が言うように、時間をかけて距離を縮めることが大切だと思いました。

解決が困難な問題

一方で、学校の資金不足は深刻です。日本と違って、毎年人口が増え続けているパキスタンでは、どの学校も教室不足に悩んでいます。新たな教室を作っている最中の学校ですら、「児童数がまた増えたから、教室なんとかならないかしら」と相談されます。教室が足りないため、廊下で学んでいる子どもたちも大勢います。

また、貧困の影響も大きく、子どもの制服やカバン、ノートや文房具を買えない世帯が多くあります。ある学校の校長は「児童230人分のノートと文房具を、私が自腹で購入している」と話していました。同じような声は隣のハリプール郡の小学校でも聞かれます。また、通学に困難を抱える身体障がいのある子どもたちの場合、車やリキシャで学校に通うのに、1カ月に6,000ルピー(3,300円)ほどの交通費がかかります。毎日片道約1時間、障がいのある娘を抱えて通学しているお母さんもいました。

こうした問題はなかなか解決できないのが実情で、校長先生と一緒に「どうすればいいんだろう? 何かいい方法ないかな?」と悩んでいます。政府の財政事情も厳しいため、公的支援もなかなか期待できません。

AARが設置したスロープを利用する車椅子の児童

AARが事業対象校に設置したスロープ=アボタバード郡で2025年6月

学校を訪問すると嬉しい話と同じくらいに、残念なことも耳にします。こちらの力不足を実感する出来事も多くあります。それでも、少しでも子どもたちの学びの状況がよりよくなるように、支援を続けています。

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紺野 誠二KONNO SeijiAARパキスタン事業担当

2000年AARに入職し、2005年パキスタン大地震の被災者支援に従事。その後も、東京とパキスタンを行き来しながらパキスタン事業に携わり、現在は、東京事務所で地雷・不発弾対策対策なども担当。

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