活動レポート Report

ロヒンギャ難民の障がい者を現地団体とともに支援:バングラデシュ

2025年5月19日

ミャンマー西部のイスラム少数民族ロヒンギャが2017年8月、治安部隊による無差別の武力弾圧を受けて隣国バングラデシュに大量流入した人道危機から8年。累計100万人超のロヒンギャ難民は今、祖国に帰還できる見込みもないまま、世界最大の難民キャンプ群一帯に滞留しています。AAR Japan[難民を助ける会]は現地協力団体とともに、難民および周辺地域住民の身体障がい者支援などに取り組んでいます。元現地駐在で東京事務局の中坪央暁が報告します。

義足や歩行補助具、車いすを提供

バングラデシュ最南端に位置するコックスバザール県テクナフ郡。粗末な小屋が迷路のように密集するレダ難民キャンプで暮らすシード・ノールさん(34歳)は、2017年の流入時ではなく、それ以前の2008年に迫害から逃れて国境を越えて来ました。シードさんは左脚のひざから下がありません。キャンプ周辺ではしばしば起きることですが、7年前に交通事故に遭ったのです。

義足を装着した難民の男性

AARが現地協力団体とともに届けた義足を装着するシード・ノールさん=バングラデシュ南東部コックスバザール県のレダ難民キャンプで2025年5月14日

障がい者になった夫を見捨てて妻は去ってしまい、松葉杖が手放せなくなった彼の世話をしているのは70歳の母親です。キャンプでは仕事がなく、国連機関の食料配給を受けるしかない最低限の生活が続いて体調も思わしくありません。

AARは5月中旬、障がい者支援などに取り組むバングラデシュのNGO「SARPV」(本部ダッカ)とともに義足を届けました。これはSARPVの専門工房が彼の脚に合わせて丁寧に作ったもので、ひざや足首の関節はスムーズに動くように輸入品の特別な部品を使っています。さっそく装着して試しに歩いてみて、違和感のある部分を微調整のうえ、後日改めて提供することになりました。

シードさんは「松葉杖の生活は不便で、義足を付けて歩けるようになれば、もっと自由に出歩けるようになるでしょう。今の私には未来も夢もありませんが、いつか平和になったミャンマーに帰って自分の人生を取り戻したいと思います」と話します。

ロヒンギャの故郷であるミャンマー西部ラカイン州では現在、仏教徒の武装勢力アラカン軍と国軍の戦闘が続いています。同じくテクナフ郡のジャディムラ難民キャンプで家族と暮らすジョビアダさん(15歳)は2024年8月、母親と弟をアラカン軍による無人機攻撃で失い、父親らとともにバングラデシュに避難しました。

歩行補助具を取り付ける様子

ジョビアダさんの左脚に歩行補助具を付けるSAPRVスタッフとAAR中坪央暁(右)=ジャディムラ難民キャンプ

ジョビアダさんは幼い頃からポリオを患っていて、左脚が不自由です。AARとSARPVは歩行補助具を届けて、キャンプの診療所で試しに装着してもらいました。少し歩き回ってみたところ、「とても歩きやすく痛みも感じません。きっと生活がしやすくなります。提供してくださった皆さんに感謝します」。つらい経験ばかり重ねてきたジョビアダさんですが、「将来は結婚して家庭を持ち、自分で洋裁の仕事を始めたい」と夢を語りました。

SARPV地域責任者のカジ・マクソドゥル・アラムさんは、「私たちの調査によると、何らかの障がい者がいる世帯は難民キャンプでは全体の14.3%、ホスト・コミュニティ(周辺村落)では10.7%に上ります。このうちキャンプでの障がい児の割合は4.9%、特に栄養不足などによる『くる病』やポリオ、先天性内反足が目立ちますが、早期に治療・矯正を行えば治すことができます」と説明します。

60万人以上が暮らすクトゥパロン難民キャンプ(ウキア郡)では、両親が次男ジサンちゃん(2歳)の両脚に矯正器具を取り付けていました。生まれつき脚に異常があることに気付いた両親が支援を求め、SARPVが先天性内反足と診断して初期治療を施すとともに、ジサンちゃんの脚に合わせたプラスチック製器具を提供したのです。「夜寝る時は必ず器具を付けます。少しずつですが良くなっているように見えます」と母親のジャンナさん。

ジサンちゃんと両親

ジサンちゃんの両脚に矯正器具を取り付ける両親=クトゥパロン難民キャンプ

キャンプ周辺の障がい者もサポート

AARとSARPVは難民キャンプ3地区と周辺村落1地区で、幼児から成人までの身体障がい者、身体の不自由な高齢者合わせて約200人を対象に、義足や松葉杖、歩行補助具、車いすを提供するとともに、療法士によるリハビリテーション指導を行っています。キャンプ周辺は所得水準の低い農村地帯で、とりわけ重症の障がい児がいる世帯が公的支援もないまま放置されている実態があります。難民に加え、こうした社会から見放された人々にもSARPVはアクセスしています。

クトゥパロン難民キャンプから数キロ離れた丘陵地では、井戸もなく電気も通っていない集落で、仏教徒の少数民族チャクマの人々がひっそりと暮らしています。乾燥しきった土地では農業もできません。高床式の粗末な家に住むラジャ君(10歳)は脳性麻痺で立ち上がることができず、両腕で這うように移動します。両親がいないため、兄と姉が山で採った野生の果物や山菜を市場で売って細々と生活を支えながら、世話をするしかありません。

車椅子に乗るラジャ君

少数民族チャクマのラジャ君(中央)と車いすを提供したSARPVスタッフ=コックスバザール県

SARPVは療法士を派遣してリハビリを施すとともに、身体の大きさに合った車いすを提供しています。一見して下半身は発達していませんが、その代わり両腕は大人のようにたくましく、車いすを操るのは問題ないようです。SARPVスタッフによると「彼は恥ずかしがり屋で、上手く話すこともできませんが、仲良くなるととても素敵な笑顔を見せてくれますよ」。

義足や歩行補助具制作中の様子

義足や歩行補助具などを製作するSARPVの専門工房=コックスバザール県

ウクライナやパレスチナ自治区ガザなど世界各地で深刻な人道危機が相次ぐ中、ロヒンギャ難民問題への関心は急速に薄れ、国際社会の支援も先細りしています。この難民・地域住民の障がい者支援は、「書き損じハガキ」キャンペーンへの皆さまのお力添えを基に実施されています。引き続き、AARのロヒンギャ難民支援へのご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

ご支援のお願い

AARへの支援活動への
ご協力をよろしくお願い申し上げます。

ご寄付はこちら

※AARは東京都により認定NPO法人として認定されており、
ご寄付は寄付金控除の対象となります。


関連記事・書籍など

ロヒンギャ難民問題―世界で最も迫害された少数民族 | 解説コーナー | AAR Japan[難民を助ける会]:日本生まれの国際NGOバングラデシュに累計100万人超 ミャンマー西部ラカイン州のイスラム少数民族ロヒンギャが2017年8月下旬以降、国軍による無差別の武力弾圧を逃れ、70数万人が難民として隣接するバングラデシュ南東部コックスバザ...

ロヒンギャ難民100万人の衝撃(めこん、税込4,400円)元AARコックスバザール(バングラデシュ)駐在の中坪央暁による 日本初のロヒンギャ問題の専門書。多数のメディア・学術書で紹介・ 引用されています。

中坪 央暁NAKATSUBO Hiroaki東京事務局兼関西担当

全国紙の海外特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の派遣でアジア・アフリカの紛争復興・平和構築の現場を取材。2017年AAR入職、バングラデシュ駐在としてロヒンギャ難民支援に従事。2022年以降、ウクライナ危機の現地取材と情報発信を続ける。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』、共著『緊急人道支援の世紀』ほか。

関連したレポート・ブログを読む

活動レポートTOP

すべての種類のレポート・ブログを見る

もくじ お探しのページはこちらから ページ
TOP