AAR Japan[難民を助ける会]は2025年4月から、中東レバノンの首都ベイルート近郊で、障がい者や高齢者などが暮らす福祉施設への食料支援を行っています。経済危機や政府補助金の削減などにより、これらの施設では深刻な経営難に直面しています。5月に現地を訪問した東京事務局の栁田純子が、福祉施設での聞き取りや現場の様子を報告します。

協力団体の食品工場で、支援物資の食料を視察する栁田=ケセルワン・ジュベイル県で2025年5月29日
施設は常にギリギリの状態
AARが支援を行っているのは、ベイルートに隣接する山岳レバノン県を中心とした地域にある10施設です。ここでは、昨年10月のイスラエルによる侵攻を逃れた国内避難民に加え、高齢者、障がい者、重度の精神疾患を抱える人、GBV(ジェンダーに基づく暴力)被害を受けた女性やその子どもたちが暮らしています。これまで、現地協力団体のNGO「ShareQ」と連携し、約2,500人に約42,000食の食事を提供してきました。
私は5月26日、1977年創設のキリスト教系福祉施設「Dar El Rahme」を訪問しました。施設は静かな山の中にあり、全体的に質素で落ち着いた印象の建物でした。ここには255人が入居しており、約8割が高齢者、2割が障がい者です。
レバノンでは、2020年のベイルート港の爆発事故で首都の半分が被害を受け、そこから立ち直らないうちに今回の中東紛争が始まりました。インフレが深刻で、通貨のレバノンポンド(LBP)は2022年6月に1米ドル=約1,500LBPだったのが、25年6月現在は1米ドル=8万9,600LBPと、約60分の1になりました。
「Dar El Rahme」ではこのほど、3年遅れでようやく政府から補助金が支給されましたが、金額は3年前のまま。「障がい者1人分の生活費として支給された額でも、現在では500mlの水1本しか買えません。施設は常にギリギリの状態で運営されています」と、シスターは話します。

AARが提供した食事の準備をする福祉施設の職員=ケセルワン・ジュベイル県で2025年5月27日
毎日の食事が楽しみ
今回の訪問では、施設で生活するアロンドラさん(30歳)にお話をうかがいました。彼女は、レバノン南部の村で家族5人と暮らしていましたが、子どもの頃からてんかんの発作があり、昨年の紛争以降、不安から記憶がなくなったり、判断力が低下したりしてきたそうです。心配した家族は、2024年10月に彼女をDar El Rahmeに入所させ、家族4人も施設の近くの村に避難しましたが、収入が得られず、父親と兄の1人は南部の故郷に戻り、それぞれ車両修理工や親戚の精肉店で働いています。
「AARが提供してくれた食事のなかでは、チキンライスとレンズ豆の煮込みが好きです。食事は日替わりで、今日は何が出るのだろうと毎日楽しみです。家族と離れて暮らすのは寂しいけれど、AARの食事は私に元気をくれました」とアロンドラさん。英語で私に感謝を伝えようとしてくれましたが、「以前はもっと話せたのに」と、少し残念そうでした。

アロンドラさん(右)にインタビューする栁田=山岳レバノン県で2025年5月26日
施設で実施したアンケートでは、「薄味なので、もっとスパイスや塩味が欲しい」という声もありましたが、これはお年寄り向けに味を抑えているためで、必要に応じて後から味を足せるよう配慮されています。一方で、「噛んだり飲み込むのが難しい人への配慮がされていて満足」「清潔だった」といった肯定的な意見も多く寄せられています。食事はパックで提供されており、湯煎で温めて提供できます。施設のスタッフからも、「停電が続く中でも、電気を使わずに出せるのが良い」「清潔で助かる」との声が寄せられました。
支援がスタッフの負担軽減にもつながっているという点が、私には嬉しく感じられました。また、入居している方々が、施設で安定した食生活を送れることが、離れて暮らす家族の安心にもつながっており、支援の間接的な効果も確認できました。
レバノンでは依然として厳しい状況が続いています。AARのレバノンでの支援活動にご協力くださいますよう、お願い申し上げます。
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栁田 純子YANAGIDA Junko東京事務局
ピアノ教師としてトルコで7年間暮らした後、2013年AAR入職、トルコ事務所でシリア難民支援に携わる。現在はレバノンのほか、ウクライナとモルドバの支援事業を担当。