活動レポート Report

洪水被害の渓谷に発電所を再建@パキスタン

2025年9月16日

パキスタン北西部の山間部にある村で、AAR Japan[難民を助ける会]は住民と協力して小さな水力発電所を再建しました。この村では2024年夏にもともとあった発電所が洪水で破壊され、それ以降は夜になると真っ暗で、村の人は家事も勉強もできない生活が続いていました。パキスタン・イスラマバード事務所の小柳勇人が報告します。

バンダ村の人々

再建した発電所の前に集まるバンダ村の人たち=2025年7月撮影

電気を失い暗闇に閉ざされた村

ハイバルパフトゥンハー州マンセラ郡にあるマヌール渓谷は、約14キロにわたって続く深い谷で、点在する43の村に約4万5,000人が暮らしています。2024年7月に大雨による大規模な洪水が起き、各地で家屋や農地、橋が流されるなどの被害が発生しました。

谷の中でも特に僻地にあるバンダ村には約25世帯200人が暮らしています。周辺の村も含めた電力を供給する水力発電所がありましたが、洪水によって破壊され使用不能になりました。近くには被害を免れた古い発電装置がありましたが、ここで賄える電気はわずかで、洪水後、この地域一帯は深刻な電力不足に陥りました。

「日没後、照明がないため高校生の息子が勉強できず、宿題もできない」「2歳と3歳の子どもがおなかを空かせても、暗くて何も作ってあげられない」「洗濯機も動かせず、冬は氷点下にもなる気温の中、震えながら手洗いで洗濯をしている」「携帯電話の充電ができず、緊急時に連絡ができない」。こうした声が、村のあちこちから上がりました。

地面に座って村人と話し合うAAR職員

発電所の再建計画について話し合う村人とAARのイシュファーク職員(右側中央)=2025年1月

工事はすべて住民の手で

AARはまず、村人たちに壊れた水力発電所の修復計画を立ててもらいました。どの資材をどれだけ用意するのか、それを山奥までどのように運んでくるのかなどについて話し合い、その内容をもとに予算や工期を見積もりました。AARが資材の調達と村近くまでのトラックによる運搬を担い、建設作業は住民が協力して行うことになりました。

村には専門の建設会社や資格を持つ技術者はいませんでしたが、人々は力を合わせ、岩や資材を運び、水路を掘り、水を発電機へと導くパイプを組み立てていきました。資材の費用はAARが負担しましたが、工事そのものはすべて住民の手によって進められました。冬季には大雪のため工事を中断せざるを得ませんでしたが、雪解けを待って再開し、1年がかりで水力発電所が完成しました。

仮に設置された巨大な鉄製のパイプ

村人の手で運び込まれた、発電所に水を導くための鉄製パイプ=2025年5月

村に戻った明かり、発電所を守る取り組み

今回再建したバンダ村の発電所からは、同村と近隣9つの村の約150世帯(約1,200人)に送電しています。夜には明かりが灯り、子どもたちは宿題に取り組み、母親たちは調理や洗濯を以前のように行えるようになりました。

また、村の人々は発電所を維持していくために「管理委員会」をつくり、AARはその運営の仕組みづくりをサポートしました。ワークショップを開き、発電所の仕組みや点検方法を学んだうえで、誰が、いつ、どの部分を確認するかを記した「メンテナンスチェックリスト」を作成しました。洪水や土砂崩れが起きやすい地域であることから、住民と一緒にハザードマップを作り、危険箇所の把握と対策づくりも行いました。

村長のアリ・アスガルさんは「ようやく村全体が洪水前の暮らしに戻りつつある」と語り、発電所の管理委員長となったムハンマド・アリフさんは「村に電気を届ける大切な役割を担えて誇りに思う」と話していました。

発電機を確認する村人たち

再建した発電機を確認する「管理委員会」のメンバーら=2025年7月

洪水が発生してから被災地に電力を届けるまでに時間がかかってしまいましたが、なんとか事業を完了させることができてほっとしています。険しい山岳地帯の冬場に、電気のない状態で生活をすることは想像以上に辛く、苦しいものであったと思います。無事に発電施設が稼働し始め、村の生活が被災前のような状態に戻りつつあることを大変うれしく思います。

この成果は、ひとえにご支援くださる皆さまのご理解とご協力があってこそで、重ねて御礼申し上げます。気候変動の影響を受けやすいパキスタンでは今年も全国各地で大規模な洪水被害が発生しています。AARはこれからも洪水被害を含め、最も脆弱な立場にある方たちの支援を続けていきます。今後とも、活動へのご協力をよろしくお願い申し上げます。

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小柳 勇人OYANAGI YutoAARパキスタン事務所

民間企業勤務や教員を経て2021年12月にAARに入職、2022年3月よりパキスタン・イスラマバード事務所駐在。

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