活動レポート Report

誰もが学び、働ける社会をめざして:カンボジアの障がい者支援

2025年12月3日

近年、着実な経済成長を遂げているカンボジア。労働参加率が84%と高水準にある一方、雇用されている障がい者の割合はわずか0.5%程度と推計されています。AAR Japan[難民を助ける会]は障がい者の就労機会を広げるため、職業訓練校と連携して職業訓練から就労までを一貫して支援する体制づくりに取り組んでいます。

プログラム視察の様子

事業開始当初、職業訓練プログラムを視察するAAR職員=クサイ・カンダール郡で2024年8月27日

校舎のバリアフリー化と研修支援

「Women’s Development Center:WDC」は、2010年に首都プノンペン近郊のカンダール州クサイ・カンダール郡に設立された、女性のための職業訓練校です。政府女性省が運営し、「縫製」「織物」「美容」の3コースで10代から60代まで約80人の女性が訓練を受けています。

AARは2024年からWDCとの共同事業を開始。校内の段差をなくしたり、トイレや教室をバリアフリー化したりしたほか、ミシンや美容器材の提供を行いました。また、WDCの指導教官や職員を対象に、障がい理解に関する研修を実施し、障がいのある訓練生との接し方や支援方法などについて学ぶ機会を設けました。さらに、訓練生が将来の働く姿を具体的に思い描けるよう、障がい者を雇用している企業への職場見学会も行っています。

実際に車いすにのりスロープを確認しているAAR職員

WDCに設置したスロープを確認するAAR職員=2024年10月10日

障がいのある女性たちが学びの場へ

受け入れ体制の整備が進み、障がいのある女性たちが少しずつWDCの訓練に参加するようになってきました。2025年11月現在、聴覚障がい、視覚障がい、内部障がい(内臓機能の障がい)、精神疾患のある7人が学んでいます。

2025年1月に入校した、聴覚障がいのあるスレイリエップさんは、当初は恥ずかしそうに教室の隅に座っていましたが、徐々に織機の操作を覚え、やがてアンコールワットの模様をあしらった布を織り上げるほどの技術を身につけました。10月には縫製工場の職場見学会にも参加し、障がい者が現場で働いている様子を見て、「自分もここで働きたい」と、翌日からは自主的にミシンの練習にも取り組み始めました。

ミシンの練習をする様子

ミシンの練習を始めたスレイリエップさん=2025年10月2日

職員や地域にも変化

WDCの職員にも変化が生まれています。AARの研修を受けた職員からは、「障がいがあっても一緒に学べる」「障がいのある訓練生がWDCにどんどん来てほしい」との声が聞かれるようになりました。

清掃担当職員のソックエンさんも、その変化を象徴するひとりです。彼女は、WDCの受け入れ環境が整備されたことで「もっと多くの障がい者にWDCに来てほしい」と、近所に住む障がいのある若者の家を訪問。「家に閉じこもっているのならWDCに来なさい。私があなたをバイクの後ろに乗せて行くから」と声をかけ、実際に通学を支えています。

ソックエンさん

訓練生の送迎も行なっているソックエンさん=2025年3月18日

また、職場見学を行った地元企業からも「技術を学びにインターンシップに来てほしい」「採用を拡大中だからぜひ応募してほしい」との声が寄せられ、雇用の可能性も広がり始めています。

誰もが学び、働ける社会をめざして

WDCとAARが行なっている取り組みは、「インクルーシブな学びの場づくり」といえます。障がい者にとって学びやすい環境は、他の人たちにとっても学びやすい環境になるからです。実際にWDCは、学校を中退した若者や、自宅に閉じこもりがちな高齢者など、障がい者以外にもさまざまな困難に直面した人たちが仲間と出会い、再び社会とつながる場所としての役割を果たしています。

見学するWDC訓練生2名

障がい者が活躍する工房の職場見学をするWDC訓練生(左)=クサイ・カンダール郡で2025年10月1日

AARは今後も、行政機関や地域団体と協力し、障がいの有無や年齢にかかわらず、すべての人が自分らしく働き、地域の一員として生きられる社会の実現を目指します。カンダール州で芽生えたこの小さな変化が、やがてカンボジア全体へと広がっていくことを願いながら、活動を続けていきます。

山本 啓太YAMAMOTO Keitaカンボジア・プノンペン事務所

大学卒業後、理学療法士として働く。ベトナム農村部での医療ボランティアを経験後、同国の医療系大学での教員を経て2020年にAARに入職

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