2022年2月24日、ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まりました。衝撃的な映像が報道され、クラスター爆弾が使用された可能性も指摘されています。そして、3月8日、「赤十字国際委員会(ICRC)は7日、ロシア軍が包囲したウクライナの都市マリウポリ(Mariupol)で、民間人を避難させる“人道回廊”とされた道路に地雷が埋設されていたため、人々が避難できなかったことを明らかにした。 」[1]とのニュースが入って来ました。
この情報だけではどのような地雷が、どの勢力によって使用されたのかは明らかではありませんが、ウクライナは今回の軍事侵攻以前から地雷・不発弾による被害が多数報告されています。AAR Japan [難民を助ける会] 東京事務局の紺野誠二が、ウクライナの地雷・不発弾問題について報告します。
今も残される不発弾
ウクライナでは、第一次・第二次世界大戦で激しい戦闘が繰り広げられました。特に第二次世界大戦ではナチス・ドイツ軍と当時のソ連軍により、多くの人が命を落としており、当時の不発弾等も、いまだに残っていると考えられています。
また、ウクライナの地雷問題を振り返るうえで重要なのは、2014年のロシア軍に支援を受けた分離主義勢力とウクライナ軍との武力衝突です。特にルハンスク州、ドネツク州という東部の2州において激しい戦闘があり、両軍ともにクラスター弾を使用しました 。[2][3][4]
Landmine Monitor 2021の報告 によればウクライナの国土の8%に当たる7,000平方キロメートル(東京都の3倍の面積)が地雷・不発弾に汚染されていると報告されています。
被害が集中する東部2州
特に被害が集中しているのが、前述した東部2州。両州には2014年の紛争後に、一部の地域が独立を宣言し、実行支配しているルハンスク共和国、ドネツク共和国があります。その共和国とウクライナの境界線(通称:コンタクト・ライン)の周辺、特に近年ではルハンスク州のコンタクト・ラインを境にした地域での被害が目立ちます。
欧州安全保障協力機構(通称:OSCE)の報告書には、対戦車地雷が境界線沿いに埋設されており、コンタクト・ラインから1キロ程度離れた農地に長さ6キロにわたって対戦車地雷が埋設されている写真が掲載されています 。[5]
ロシアは対人地雷禁止条約(通称:オタワ条約)もクラスター弾に関する条約(通称:オスロ条約)、どちらの条約の締約国にもなっていません。他方、ウクライナ政府は、オタワ条約の締約国ではありますが、オスロ条約の締約国ではありません。加えて、ウクライナは2021年1月1日の時点で3,364,433個もの対人地雷を貯蔵しています 。[6]
しかし、締約国ではないからといってクラスター弾や地雷を使用してよいということにはなりません。多くの民間人が死傷するためです。これは国際人道法に違反する行為です。
これらの爆発性残存物が戦後長い間多くの人々を苦しめることはよく知られていますし、実際にウクライナでも今まで多くの方が傷ついています。私自身は2000年に当時のコソボ自治州でクラスター弾の除去に従事した経験がありますが、1999年のコソボ紛争から1年が経過しても、人々の生活圏にクラスター弾は残っていました。
懸念される地雷被害の拡大、求められる国際社会からの支援
2014年以降ウクライナの東部地域では、ウクライナ政府や国際社会が地道に地雷対策活動を続けていました。国際NGOによる地雷除去活動や被害に遭わないための教育も続けられていました。また、到底十分とは言えませんが、被害に遭われた方の支援、義肢装具の提供やリハビリ、就労支援などもなされてきました。これらの地道な活動が実を結び、2021年の1年間の民間人の被害者は58人(12人死亡、46人負傷)にまで減少していました。[7]
ですが、今回の軍事侵攻でこれらの状況も一変してしまったと言えます。それだけではありません。今まで安全であった地域も空爆にさらされています。これらの地域では、人々が地雷や不発弾の被害に遭わない行動を取るための知識も十分ではないと推測できます。
さらに、現在国外に避難している人々も、いずれウクライナに帰国することも考えられます。特に子どもたちは非常に高いリスクにさらされることは間違いありません。
一刻も早く停戦が実現し、地雷や不発弾を取り除く活動や人々が被害に遭わないための教育を実施できるようにしていく必要があります。また、被害者の支援も不可欠です。AARでは、ウクライナへの緊急支援を実施するとともに、これまでの地雷対策での経験を活かし、支援の可能性を探ってまいります。
[1] AFP=時事 「ウクライナの人道回廊に地雷 赤十字が設置」
[2] Human Rights Watch, “Ukraine: Widespread Use of Cluster Munitions Government Responsible for Cluster Attacks on Donetsk” October 20, 2014
[3]Mines Advisory Group, Norwegian People’s Aid, The HALO Trust, “MINE ACTION REVIEW CLEARING CLUSTER MUNITION REMNANTS 2021” (Page 189-199がUkraineのcountry page)
[4]http://www.the-monitor.org/en-gb/reports/2021/ukraine/view-all.aspx
[5]Organization for Security and Co-operation in Europe Special Monitoring Mission to Ukraine, “THEMATIC REPORT THE IMPACT OF MINES, UNEXPLODED ORDNANCE AND OTHER EXPLOSIVE OBJECTS ON CIVILIANS IN THE CONFLICT-AFFECTED REGIONS OF EASTERN UKRAINE November 2019 – March 2021”, May 2021, Page 18
[6]United Nations Office for Disarmament Affairs, Article 7 database (1999-present), Ukraine, submitted on 2021-03-17
[7]UNOCHA, “UKRAINE Situation Report Last Updated: 17 Feb, 2022”
紺野 誠二KONNO Seiji 東京事務局
AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。