活動レポート Report

キーウ市民「私たちは決して屈しない」:ウクライナ危機1年

2023年1月23日

ロシアの軍事侵攻が2022年2月に始まって間もなく1年、終わりが見えない中、厳冬期のウクライナでは人々が困難な状況と闘い続けています。戦時下にある首都キーウの様子、市民の思いをAAR Japan[難民を助ける会]東京事務局の中坪央暁が現地から報告します。(現地の様子を動画でご覧いただけます)

聖ソフィア大聖堂前の広場に飾られたクリスマスツリーを背景に、平和への願いを込めて記念撮影する家族。当地では1月20日頃まで クリスマスを祝う=キーウで2023年1月15日(中坪央暁撮影)

聖ソフィア大聖堂前の広場に飾られたクリスマスツリーを背景に、 平和への願いを込めて記念撮影する家族。当地では1月20日頃まで クリスマスを祝う=キーウで2023年1月15日(中坪央暁撮影)


首都に響く空襲警報と爆発音

1月14日土曜日の朝9時半頃、キーウ中心部のホテルの部屋にいたところ、遠くで鈍い爆発音が複数回聞こえました。直後にどこかでサイレンが鳴り、ほぼ同時に館内放送で「キーウに空襲警報発令、急いで地下駐車場に退避してください」と案内があって、5階から階段を駆け下りました。駐車場の片隅にソファと椅子を並べた避難スペースが用意されており、15人ほどの宿泊客と警報解除まで約1時間半待機しましたが、長い時は4時間に及ぶこともあるそうです。この日午後にもウクライナ各地にミサイル攻撃があり、東部の都市ドニプロでは集合住宅が直撃を受けて、子どもを含む40人以上が死亡する大惨事となりました。

上2022年12月末のミサイル攻撃で破壊されたキーウ市内の民家。目標をそれて落下したとみられる 下攻撃で損壊したキーウ中心部の商業地区のビル群の写真

㊤2022年12月末のミサイル攻撃で破壊されたキーウ市内の民家。目標をそれて落下したとみられる ㊦攻撃で損壊したキーウ中心部の商業地区のビル群

キーウ市街は交通量が多く、商店やレストラン、ホテルも普通に営業しており、社会・経済活動は表面的には平常に見えます。しかし、警報が発令されるとチェーン展開のスーパーマーケットやマクドナルドは一時閉店し、人々は地下鉄の駅などに避難します。1月のキーウは午後4時半頃に日没を迎えると、停電・節電の影響もあって市街地は急に暗くなり、午後11時~午前5時の夜間外出禁止で完全に静まり返ります。

また、各地の幹線道路の交差点や町の境界、橋梁のたもと、鉄道駅近くには土のうとブロックを積み上げたトーチカや検問所が設けられ、自動小銃を持った迷彩服の兵士の姿が至る所で見られるなど、東部・南部の激戦地以外も戦時下の気配が濃厚です。

電力などのインフラ施設を狙ったロシア軍のミサイル攻撃は、市民生活に大きな影響を及ぼしています。キーウ市内のアパートで独り暮らしのセルゲイさんは、「夜間を含めて一日8時間程度の計画停電があり、攻撃を受けると緊急停電が加わります。停電中はたいてい近所の給油所併設のコンビニに行って過ごします。発電機があるのでWi-Fiを使えるし、スマホの充電もできる。それに何と言っても暖房が効いていますからね」。

別の男性は「高層アパートの20階に住んでいるが、エレベーターが動かないので階段を上り下りするのが辛い。冷蔵庫の食材もダメになってしまい、今はパンとチーズなど冷たい食事ばかりだよ」と嘆きます。設置場所や燃料代の問題はありますが、1台2,000~3,000ドル見当の家庭用発電機を購入する人も増えているらしく、当地の婚活サイトやアプリでは女性が希望する男性の条件として、従来の職業・年収ではなく「発電機を持っていること」が最近のトレンドという微妙なウクライナ・ジョークを耳にしました。

停電で真っ暗なキーウ郊外のスーパーマーケット。自家発電で最小限の電力を確保している写真

停電で真っ暗なキーウ郊外のスーパーマーケット。自家発電で最小限の電力を確保している

ウクライナ国内では侵攻開始以来、物価高騰が続き、需要が逼迫する建設資材は急騰、生鮮食品(野菜・玉子・牛乳など)が1.5~2倍、ガソリンは昨夏のピーク時には3倍に跳ね上がりました。コーヒー・紅茶、ウイスキーやワインなどの輸入品は軒並み高止まりです。ガソリン価格は最近ようやく2倍に収まったものの、AARが国内避難民支援で連携する現地関係者によると、「ガソリン販売が制限された時期は、給油所に延々と並んだ挙句に5~10リットルしか買えず途方にくれて……もちろん支援活動にも支障が生じました」。

キーウ在住のおしゃれ女子イリナさんは、「食料品など値上がりしても生活に必要なものは買うしかありませんが、戦争が始まって価値観が完全に変わってしまいました。美容室に行く回数を減らしたり、新しい服を買わなくなったり。そういう気分にはなれませんからね。周りを見ると、マニキュアをしなくなった女性が結構います」と話します。

広場にロシア軍の戦車・装甲車

古都キーウ(キエフ)は、世界遺産に登録された聖ソフィア大聖堂をはじめ、歴史的建造物が建ち並ぶ美しい街です。そのひとつ、市街中心部の聖ミカエル黄金ドーム修道院前の広場に、前線で攻撃を受けて遺棄されたロシア軍の戦車・装甲車など数両が並べられ、無残な姿が戦闘のすさまじさと乗員の不幸な最期を物語っています。昨年8月24日のウクライナ独立記念日の頃には、国民の戦意高揚を企図して大通りに50両以上が展示され、たいへんな賑わいだったといいます。

キーウ中心部の広場に展示されたロシア軍の戦車・装甲車の写真

キーウ中心部の広場に展示されたロシア軍の戦車・装甲車

この広場はキーウ市民の新たな人気スポットになっており、氷点下に冷え込む1月中旬も家族連れや若いカップル、数人ずつのグループなどが次々立ち寄っては、戦車の前でポーズをとったり、砲塔に上ったりして写真を撮っていました。ロシア軍に対して徹底抗戦を続けるウクライナの市民の大多数が「ロシア軍を撃退した証拠」「ウクライナの抵抗と勝利の象徴」と受け止めているだけでなく、砲身の先端に青と黄色のウクライナ国旗を模したリボンを結んで、静かに平和を祈る人も少なくありません。

2014年から続く「ロシアとの戦争」

キーウに来て強く感じるのは、ウクライナの人々が悲壮感とは異なる淡々とした戦意と覚悟を固めていること。そして、彼らは軍事侵攻に決して屈しないだろうということです。前出のセルゲイさんは「国の存亡を懸けているので国民の士気は高く、インフラ攻撃はむしろロシアへの怒りを増幅させているだけです。私たちがロシアに屈することはあり得ず、この戦争はウクライナが勝つまで止められません」。同じくイリナさんも「前線で戦ってくれている兵士だけでなく、私たち一般市民も最後のひとりまで戦うつもりです。ロシアは全く信用できないので、政治や外交の交渉による決着はありません」と言い切ります。

キーウの修道院の壁に貼られた2014年以降の戦死者の遺影の写真

キーウ市内の修道院の壁に貼られた2014年以降の戦死者の遺影

東部地域に取り残された住民に支援物資を届けているキーウの人道支援団体UA Future代表で、ポーランド人ジャーナリストのピオトル・カシュワラさんは、「この戦争は2022年2月に始まったと思い込んでいる人が多いが、現在の事態は2014年のクリミア併合・東部紛争からずっと続いていて、今回それがエスカレート(拡大)したに過ぎません。ゼレンスキー大統領はロシアに奪われたクリミア半島やドンバス地域の奪還を本気で宣言しており、国民の大多数がそれを支持している限り、容易に引き下がることはないでしょう」と分析します。

旧ソ連の崩壊に伴って1991年に独立した若い国ウクライナでは、とりわけ2014年以降、国民のアイデンティティがより強固になったと指摘されます。戦禍を止めるために、現実的にはどこかで落としどころを探らなければならないとしても、それは今日明日の話ではなく、ウクライナ人道危機は残念ながら当面続くと考えざるを得ません。

未曽有のウクライナ危機は、日本とは関係のないどこか遠くの国の出来事ではありません。むしろこの1年、私たち自身が世界とどう向き合うのか、どんな世界を選択したいのか、抽象的な平和論ではなく、差し迫った現実を伴って問われ続けている――。戦時下のキーウで、私はそのことを痛切に感じました。

美しい古都キーウの大通り。後方は聖ミカエル黄金ドーム修道院の写真

美しい古都キーウの大通り。後方は聖ミカエル黄金ドーム修道院

AAR Japanは2022年3月以降、ウクライナ難民・国内避難民や障がい者団体への支援に加え、来日ウクライナ避難民のサポートなどに取り組んでいます。危機発生から1年の節目にあたって、AARのウクライナ人道支援へのお力添えを重ねてお願い申し上げます。

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*日本外務省の海外安全情報(2023年1月現在)では、ウクライナは「レベル4:退避勧告」に該当しますが、AAR Japanは独自の情報収集に基づき、安全を確保して短期間入国することは可能と判断しました。AARは今後も万全の安全対策を講じながら、ウクライナ人道支援に取り組んでまいります。

中坪 央暁NAKATSUBO Hiroaki東京事務局

全国紙の海外特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の派遣でアジア・アフリカの紛争復興・平和構築の現場を継続取材。2017年AAR入職、バングラデシュ・コックスバザール駐在としてロヒンギャ難民支援に約2年間携わる。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』、共著『緊急人道支援の世紀』、共訳『世界の先住民族~危機にたつ人びと』ほか。

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