2022年に発生したパキスタン大洪水によって、同国南部シンド州と南西部バルチスタン州では学校も大きな被害を受けました。AAR Japan[難民を助ける会]が2月に現地調査に入った被災地の現状をAAR現地職員のムハンマド・イシュファーク、シーマ・ファルークが報告します。 前編はこちら
小学校20校中16校にトイレがない!
私たちは洪水の被害を受けた計20校の小学校(児童数28人~664人)を訪問しました。そのうち18校は、清潔な水が得られる井戸や水道が校内になく、16校で使えるトイレがひとつもありませんでした。トイレがある場合でも、児童242人に対して1基しかないなど、とても十分な衛生環境ではありません。すべての学校で子どもたちは屋外で用を足していました。
パキスタンの学校では、不審者の侵入やのぞき見を防ぐために、壁が重要とされています。しかし7校では、洪水で壁が壊れたままでした。机と椅子もほとんどなく、児童は地面や床に置いたレンガに座って授業を受けていました。すべての学校で教員が不足しており、教員1人に対して児童数が50人以上の学校は11校に上ります。教員1人に児童110人という学校もありました。
また、ひとつの教室で学ぶ児童数が50人以上いるのが12校あり、ぎゅうぎゅう詰めの教室や屋外で授業をしています。洪水で教室が損壊し、使える教室がひとつもない学校、近所の民家を校舎として利用している学校も1校ずつありました。
子どもたちの多くはとてもシャイで、私たちが話しかけてもあまり多くを語りませんでした。「何か困っていることはある?」と尋ねると、はにかんだ様子で「OK、大丈夫」と答えます。とてもひどい教育環境ですが、子どもたちにとってはそれが当たり前のようです。
それでも、私たちが手洗いの大切さなどをまとめた衛生啓発パンフレットを配ると、みんな目を輝かせ、真剣な面持ちでイラストに見入っていました。文房具など他に何か手渡すものを持ってくれば良かったなと反省しました。
「私たちはずっと昔から、何世代も貧しい生活を強いられてきました」。バルチスタン州ジャファラバード郡のニサール・アフマド・バティさんは、電気も水も家具もない、児童数28人の小学校を案内してくれた後で、こう話しました。「だから、せめて集落の子どもたちには、学校を修理して教育環境を整えてあげたいのです。教育こそが生活を良くして前に進むことができる方法ですから」。あらゆるものが不足している中、子どもに教育を受けさせたいという親心に胸が痛みました。
記録的な大洪水から8カ月が経った今も、被災地はあらゆる分野で危機的状況が続いています。テレビや新聞で被害状況を知ってはいましたが、実際に自分の目で見て、人々の話を聞いて、とても自分の国で起きた出来事と信じることができませんでした。首都イスラマバードにも貧しい人々はたくさんいますが、比較にならないほど大変な状況です。子どもたちの学ぶ権利、将来の大切さは世界中で同じはずです。少しでも多くの支援を届ける必要があると改めて感じました。
AAR Japan[難民を助ける会]は昨夏以降、パキスタン北西部ハイバルパフトゥンハー州の洪水被災地で緊急支援活動を行ってきました。今後はシンド州、バルチスタン州で水衛生や教育分野での支援を実施します。パキスタン洪水被災地支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。
ご支援のお願い
パキスタン洪水被災者支援への
ご協力をよろしくお願い申し上げます。
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ムハンマド・イシュファックノウシェラ事務所
大学院で地理学を専攻した後、約18年間、国内外のNGOで災害時の緊急支援や復興・防災支援に従事。2022年9月からAARに勤務。妻と子ども3人の5人家族。
シーマ・ファルークイスラマバード事務所
大学でパキスタンの政治や歴史、地方自治を専攻。欧米に拠点を置く国際NGO勤務や大学講師を経て、2016年8月からAARに勤務。夫と娘の3人家族。