ロシアの軍事侵攻を逃れた約11万人のウクライナ難民が暮らす隣国モルドバ。AAR Japan[難民を助ける会]は今年7月、首都キシナウに難民と地元住民が交流するコミュニティセンター「Space for Smile」を開設し、たくさんの人々で連日にぎわっています。AARキシナウ事務所の今野聖巳が報告します。
「子どもたちは、こんな飾りを喜ぶかしら」「こっちの色にしましょうか」――。雪がちらつき始めた寒い日の午後、暖房を入れたセンターには、クリスマスの飾りつけを作るためにボランティアメンバーが集まっていました。色とりどりの花やキャンディー、雪だるまなどをあしらった美しい飾りが次々に手作りされていきます。
AARが現地協力団体レジーナ・パシス(Regina Pacis Foundation)と運営する同センターには社会福祉士が常駐し、相談者のニーズを丁寧に聞いて個別支援をしています。モルドバに避難して日が浅い難民世帯、ひとり親で子どもが多い家族、障がいや持病を持つ人々など、問題を抱えた人を特定して継続的な支援を提供することは、このセンターの大事な役割のひとつ。協力団体の医師や心理療法士による専門的な支援にもつないでいます。
もうひとつの大切な役割は、難民・地元住民双方にとっての「憩いの場」であること。AARはセンターの利用者に対して、日々さまざまなプログラムやイベント、時には郊外の遠足などを企画し、誰もが気軽に交流できる機会を用意しています。もちろん、こうした活動を支えるボランティアメンバーもセンターの大切な一員です。
大人気!難民主体のクラブ活動
さまざまなプログラムの中で何と言っても人気があるのは、利用者が主体的に立ち上げたクラブ活動です。ウクライナ南部オデーサ州から昨年2月に避難して来たテチアナさんは、今年9月から手芸クラブを開き、子どもから大人まで多くの人に編み物を教えています。
テチアナさんは「編み物はモルドバに避難してから家で持て余していた時間を使って、独学で始めました。それまで家にこもりがちでしたが、このセンターで人に編み物を教える機会を得てからは気持ちが前向きになりました。誰かに必要とされることの喜びも日々感じています」と話します。
同じくオデーサ州出身のヴァレンティーナさんは、週に2回、人形劇クラブを主宰しています。手芸が得意な彼女は、仲間たちと色とりどりの動物の人形を手作りし、近く地元の幼稚園や難民滞在施設などで披露する予定です。音楽やステージにも凝っていて、本格的な人形劇に仕上がっています。ヴァレンティーナさんは、「子どもたちの喜ぶ顔を見るのがとても楽しみです。ロシア語、ウクライナ語、ルーマニア語でも演じて、みんなが楽しめるようにしたいです」と話してくれました。
ハルキウ州出身の大学2年生のアニシアさんは、10代を中心とした「ユースクラブ」のメンバー。週1回センターを訪れる小学生に算数の勉強を教える「算数クラブ」の活動にも取り組んでいます。幼い頃から数学が得意で、現在はキシナウ市内の大学で数学の教員になるために学んでいるアニシアさんは、「子どもたちが楽しみながら算数の勉強をしてくれるのがとても嬉しいです。また、センターで同年代の仲間たちと映画やボードゲームを楽しむ時間も大好きです。大学の授業はほとんどがルーマニア語なので毎日授業についていくのが本当に大変ですが、このセンターでほっとひと息つく時間は私にとってとても大切なんです」と笑顔を見せます。
また、センターにさまざまな外部講師を招いてのワークショップやイベントも好評です。11月10日には国際移住機関(IOM)モルドバ事務所のスタッフを招き、難民の親子向けに予防接種の啓発を行うワークショップを開催。子ども向けのアクティビティも盛り上がり、保護者からは「子どもの健康に関する情報なので、詳しく知ることができて良かった」との感想が聞かれました。
先行きの見えない避難生活が続く中、難民の人々にとって周囲との交流と心安らぐ憩いの場は大きな支えになっています。引き続き、AARのウクライナ難民支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。
今野 聖巳KONNO Satomiモルドバ事務所
大学院で国際法を専攻し、法律機関や大使館での勤務を経てAAR入職。2023年6月よりモルドバ事務所駐在。