活動レポート Report

隣国モルドバで故郷を想う日々:ウクライナ人道危機2年

2024年2月20日

ウクライナ人道危機が続く中、AAR Japan [難民を助ける会]は昨年7月以降、隣国モルドバの首都キシナウで現地協力団体と協力し、コミュニティセンター「Space for Smile」を運営しています。長引く避難生活を余儀なくされているウクライナ難民と地元住民に必要な支援を提供するとともに、双方の交流の場として親しまれています。同センターの活動の様子をAARキシナウ事務所(モルドバ)の今野聖巳が報告します。

書道で望郷の気持ちを表現

「なかなか難しいわね」「こんな感じかしら」――。1月のある日、コミュニティセンターでは日本文化を体験するワークショップとして「書道教室」が開催されました。参加した女性たちは、手本に書かれた日本語の意味を聞きながら書きたい文字を選び、毛筆と墨汁で初めての書道に挑戦です。

何人かのウクライナ難民の女性は「早くウクライナに帰りたい、家族に会いたいという気持ちを書道で表現したい」と言いました。そこで日本語で「家路」や「家族」と手本を書いて手渡すと、それを真似ながら一生懸命に筆を運び、「これを家に飾るわ」と笑みを浮かべました。

女性たちが書道をしている

AARが運営するコミュニティセンターで書道に挑戦するウクライナ難民の女性たち=モルドバの首都キシナウで2024年1月

「ここは心落ち着く居場所です」

センター開設当初からボランティアメンバーとして活動するリュボーフィさん、イリーナさん母子は、軍事侵攻開始から1カ月半後の2022年4月上旬、暮らしていた東部ドネツク州へのロシア軍の攻撃が激化し、イリーナさんの15歳の息子と3人でモルドバに避難することを決意しました。

家族3人が同州内の駅で列車に乗り込んで出発した数時間後、その駅は爆撃されたと言います。「多くの市民が命を失いました。命からがらモルドバに逃れられた私たちは幸運だったんです」とリュボーフィさんは話します。

ドネツクは「百万本のバラの街」と呼ばれ、産業もスポーツも盛んな豊かで美しい都市でした。けれども「ロシア軍の攻撃で、広大な工業地帯も、私が20年以上勤務していた大学も、何もかも破壊されてしまいました」とリュボーフィさん。

娘のイリーナさんは「この冬にはウクライナに戻れると思っていましたが、2年経っても状況は変わりません。いつまで支援を受けられるか分からないし、先のことが見通せないのはとても不安です」。そんな二人にとって、このセンターは「戦争のことをしばし忘れて心穏やかに過ごすことができる大切な居場所」だと言います。

女性二人が座って作業している

飾り付けを手作りするリュボーフィさん(右)と娘のイリーナさん(左)

新しい人生を見据えて

現地協力団体レジーナ・パシスのソーシャルワーカーとして、センターを訪れる利用者のニーズを聞き取り、生計を支えるバウチャー券の配布、心理療法士や医師による診療の紹介などの個別支援にあたるカテリーナは、同じく東部ハルキウ州の出身です。2022年6月にモルドバに避難し、翌月には同団体で働き始めた彼女は「仕事をしない生活は考えられなかった」と話します。

ハルキウ州では今でも毎日のようにロシア軍の爆撃が続いていますが、彼女の両親は故郷に残ることを選んだと言います。「朝起きると、まずスマホのメッセージアプリで両親が『オンライン』になっていることを確認します。それで無事に生きていることが確認できますからね」。

ウクライナ難民を支えようとするモルドバの人々の思いも、支援に感謝するウクライナ人の思いも、当初から変わらないとカテリーナは言います。しかし、避難生活が長期化する中、「ここで自立しなければ」という気持ちと「一日も早く祖国に帰りたい」という望郷の念の間で、多くの難民は葛藤を抱え、途方に暮れているのが実情かも知れません。

「ウクライナに早く戻りたい気持ちは私も同じです。それと同時に、私たちはここで新しい人生を始めるくらいの覚悟を持たなければならないとも思っています。この戦争がいつ終わるかは分かりませんから」と彼女は決意を秘めた表情で語りました。

女性2人が工作をしている

個別支援に携わる傍ら自分も活動に参加するカテリーナ(左)

ウクライナ人道危機から2年、祖国を離れて暮らす難民は先の見えない避難生活の中、ささやかな心の拠りどころ見つけて、ウクライナに帰る日を待ち望んでいます。AARのウクライナ人道支援へのご協力をお願い申し上げます。

※この事業はジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成を受けて実施しています。

今野 聖巳KONNO Satomiモルドバ駐在員

大学院で国際法を専攻し、法律機関や大使館での勤務を経てAAR入職。2023年6月よりモルドバ事務所駐在。

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