世界各地の地雷対策関係者が集まる第27回「国際地雷対策プログラム責任者会合」が4月29日~5月1日、スイスのジュネーブ国際会議場で開催され、AAR Japan[難民を助ける会]も参加しました。会議で共有された最新情勢を東京事務局の紺野誠二が報告します。
食料安全保障に貢献する地雷対策
今年の会議で注目されたのは、レバノンからの報告です。世界では今、紛争や気候変動などの影響で、3億人以上が「急性食料不安(acute food insecurity)」に直面しています。レバノンでは、地雷やクラスター弾が除去された地域では、農業が再開され、家畜の放牧も行われるようになりました。修理できないままだった給水施設が使えるようになり、食料増産に結び付いただけでなく、果樹園の作業など雇用を生み出しています。地雷対策に取り組む機関・団体と世界食糧計画(WFP)や国際連合食糧農業機関(FAO)との連携の重要性が改めて共有されました。
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナの地雷問題も大きな課題です。最近の地雷対策では、ソーシャル・メディアが重要な情報源になっており、「オシント情報(Open Source Intelligence)」と呼ばれる一般に公開される情報をAIを使って分析し、地雷原を一定程度特定することが可能になっています。ウクライナではSNSで発信された建物の被害写真、チャットツールのつぶやきの情報をAIで収集・分析し、どこに地雷がありそうかを把握しています。こうした技術を活用することで、地雷除去の効率化が図られます。
アフリカで深刻化するIED被害
一方で、状況が深刻化している地域もあります。アフリカで問題となっているのが、即席爆発装置(IED)です。IEDは構造が単純で、爆弾本体は灯油タンクや圧力釜、ペットボトルなど、爆薬は商用の爆薬や硝酸アンモニウムなどを使用した肥料などの材料が使われています。
アフリカ西部・中部の深刻な状況も報告され、ブルキナファソでは、2017~2023年に691件のIEDの爆発があり、死者678人の半数は民間人でした。ナイジェリアでは反政府武装組織によって多くの被害が発生しています。アフリカ諸国では国境を越えて物資が行き交っており、爆薬や起爆装置などの規制のため、各国の税関当局やインターポール(国際刑事警察機構)などの連携強化の必要性がアピールされました。
会議の場でしばしば耳にしたのが、地雷対策において「銀の弾丸(silver bullet)などない」、つまり「これがあればすべてが解決する」ものは存在しないということでした。地雷対策には膨大な時間と労力がかかります。しかし、世界各地でさまざまな経験が積み重ねられ、知見が共有され、AIの活用など技術革新が進んでいる側面もあります。地雷被害者を少しでも減らすために国際社会が連携して粘り強く取り組んでいくしかありません。
AARはアフガニスタン、カンボジア、ウガンダなどで地雷除去や地雷被害者支援、地雷の危険性を伝える「回避教育」に長年取り組んできた実績があります。AARの地雷対策事業へのご理解をよろしくお願い申し上げます。
紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局
AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は地雷問題やパキスタン事業を担当。