活動レポート Report

厳しさ増すロヒンギャ難民キャンプ:大量流入8年

2025年8月18日

ミャンマーのイスラム少数民族ロヒンギャが2017年8月以降、無差別の武力弾圧を逃れて隣国バングラデシュに大量流入した大惨事から8年。累計100万人超のロヒンギャ難民は、祖国に帰還できる見込みもないまま「世界最大の難民キャンプ」に閉じ込められ、1月に発足した米国のトランプ政権による人道支援大幅削減がさらなる追い討ちをかけています。現地から報告します。

難民キャンプの軽食屋に立ち寄る親子の写真

クトゥパロン難民キャンプの軽食屋に立ち寄る親子=バングラデシュ南東部コックスバザールで2025年5月撮影

「ここで8年間暮らしているが、息子や娘たちは正規の教育を受けられず、働くこともできない。子どもたちの将来が心配だよ」――。バングラデシュ南東部コックスバザール県。狭いエリアに約60万人が密集するクトゥパロン難民キャンプで、アクタルさん(58歳)は力なく話しました。

ミャンマー西部ラカイン州で起きたミャンマー国軍による武力弾圧では、74万人が国境を越えて隣接するコックスバザールに逃れ、それ以前から避難していた20万~30万人などと合わせて、難民は現在114万人余りに上ります。難民帰還(送還)に向けたバングラデシュ・ミャンマー両政府の協議は形式的に続いていますが、そもそもミャンマー側に受け入れの意思はなく、帰還が実現する見込みはありません。

ミャンマー国内は2021年の政変以降、少数民族武装勢力と国軍の戦闘が続いて内戦状態にあります。とりわけロヒンギャが居住していた同国西部ラカイン州の北部地域は、強力な仏教徒武装勢力「アラカン軍」が国軍を駆逐して支配を固めており、難民帰還どころか、昨年来新たに約15万人の難民がコックスバザールに流入しているのが実情です。

建物が密集する難民キャンプの通路の様子

迷路のようなロヒンギャ難民キャンプ

最近逃れて来た男性(25歳)は「アラカン軍は村々を無差別に攻撃し、住民を拘束しては拷問・殺害しており、叔父は無人機攻撃で殺されました。アラカン軍と国軍の両方が『人間の盾』に使うために、ロヒンギャの男性を強制的に徴兵していて、とてもじゃないが難民が帰れる状況ではありません」と証言します。

ロヒンギャ難民を取り巻く環境は厳しさを増しています。難民キャンプは今年3月、国連世界食糧計画(WFP)による食料配給が半減される危機に直面して、パニック状態に陥りました。最大の資金拠出国であるアメリカのトランプ大統領が、海外援助の停止・削減を打ち出したことが原因です。この絶体絶命のピンチは瀬戸際で回避されましたが、トランプ政権下で人道支援は大幅に縮小され、現地の国連関係者は「米国が果たしてきた役割は大きく、トランプ政権の方針は大打撃になる。国連機関職員が大幅に削減され、支援計画も見直さざるを得ない」と話します。

仮設学校の子どもたちの様子

難民キャンプのラーニングセンター(仮設学校)の子どもたち

こうした中、AAR Japan[難民を助ける会]は現地協力団体と連携して、難民キャンプおよび周辺地域(ホストコミュニティ)の身体障がい者に義足や歩行補助具、車いすなどを提供する支援を実施しているほか、女性や子ども・青少年が活動する施設を運営しています。

ロヒンギャ難民の障がい者を現地団体とともに支援:バングラデシュ

女性や若者たちの意識に変化:ロヒンギャ難民支援

ロヒンギャ難民問題―世界で最も迫害された少数民族

ロシアによるウクライナ軍事侵攻やパレスチナ自治区ガザの衝突など、深刻な人道危機が相次ぐ今、解決の見通しがないロヒンギャ難民問題への国際社会の関心は薄れて、支援は先細っています。AARは苦境にある人々が少しでも希望を持てるように、引き続き支援に取り組んでまいります。AARのロヒンギャ難民支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。

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中坪 央暁NAKATSUBO Hiroaki東京事務局兼関西担当

全国紙の海外特派員・編集デスクを経て、国際協力機構(JICA)の派遣でアジア・アフリカの紛争復興・平和構築の現場を取材。2017年AAR入職、バングラデシュ駐在としてロヒンギャ難民支援に従事。2022年以降、ウクライナ危機の現地取材と情報発信を続ける。著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』、共著『緊急人道支援の世紀』ほか。

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