世界では多くの人々が、特に就労する機会に乏しい障がいのある方々が、貧困に苦しんでいます。就労は安定した生活をもたらすだけでなく、自尊心の回復や地域社会へのつながりの強化になります。そして、地域社会への貢献は、差別意識を減少させます。AARはミャンマーで、障がいのある方やその家族への就労支援を行っています。

就職後を想定した実践的な知識・スキルを身に付けるためのワークショップで、お客さんとのトラブルの解決方法を話し合う訓練生=2026年3月12日
全寮制で3カ月半 卒業生の9割 就労に成功
「あなたの強みは何ですか?」
午前8時30分、授業の前に行われる朝の講話の時間。講師の問いかけに、若者たちが照れながら手を挙げます。少し緊張感が漂う教室にやがてリラックスした笑顔が広がっていきます。
AARが2000年からミャンマーの最大都市・ヤンゴンで運営する障がい者のための職業訓練校(VTC)。現在49人が理容美容、洋裁、コンピューターの各コースで学んでいます。この学校の大きな特徴は3カ月半にわたる寮生活です。全国から集った若者たちは、寝食をともにしながら専門技術だけでなく、社会で働き続けるために必要な協調性や自己表現の力を育んでいきます。
ミャンマーに根強く残る障がい者に対する偏見や差別から、家にこもりがちで、家族以外とのコミュニケーションに慣れていない若者も少なくありません。寮に個室はなく、食事は当番制。最初は緊張でガチガチだった訓練生が、共同生活を通じて少しずつ心を開き、励まし合う仲間へと変わっていく姿は、何よりの成長の証です。
昨年の8月に理容美容コースを卒業したミョーサンダートゥンさんは、バイクの事故で歩行障がいがあります。「癌で右脚を切断した弟がVTCの卒業生で、彼の勧めで入学しました。寮生活はとっても楽しかった。故郷に帰って弟と一緒にヘアサロンを開きたい。そしていつかヤンゴンにも進出したい」と、大きな夢を抱いて巣立っていきました。25年間で2,080名が訓練を受け、近年では、その8~9割が就職や開業などの何らかの形で就労を果たしています。

訓練中のミョーサンダートゥンさん(左)=2025年5月
卒業後もサポートを継続
AARの取り組みは、職業訓練にとどまりません。17年からは、障がい者雇用の促進に力を入れています。
ヤンゴン事務所の職員が卒業生が勤める企業を訪問し、雇用主との間に立つ「調整役」となり、職場で生じる小さなつまずきを早期に解決し、離職を防ぎました。例えば、障がいのある同僚の退職をきっかけに不安を抱えた卒業生には、職員が面談を重ねて気持ちを整理し、働き続ける自信を取り戻す手助けをしました。また、障がいの特徴に適さないイスで業務に支障が出ていた卒業生には、企業と協議のうえ適切なクッションを提供し、環境を整えました。企業側にとっても、合理的配慮の具体例を学ぶ機会となり、障がい者雇用への理解が着実に広がりました。

2018年に制作したミャンマー初の「障がい者雇用ハンドブック」
さらに18年には、障がい者の権利に関する法律や適切なコミュニケーション方法、合理的配慮の事例などを掲載した「障がい者雇用ハンドブック」を障がい者支援団体と共同で制作。現在も支援団体のHPからダウンロードができ、24年10月公開の改訂版は、約1年4カ月で1万回以上ダウンロードされています。
20年の新型コロナウイルス感染拡大により、訓練校は2年半にわたり休校を余儀なくされました。その間も卒業生へのビデオ教材の配信や電話、SNSを通じた個別技術指導を続けたほか、困窮する卒業生には食料や日用品を提供しました。現在も、卒業生がさらに技術を磨くためのコースを開講したり、就職の斡旋も行ったりしているほか、ミャンマー国内企業を訪問し、雇用促進のための啓発活動を続けています。卒業直後に就職が決まっていなくても、職員が卒業生一人ひとりの多様な個性に合った働き方を共に探していきます。その結果、23年度には、89%が、24年度は90%の卒業生が、それぞれに適した形で仕事に就くことができています。
03年よりヤンゴン事務所で働く所長のワーワーは、「美容サロンや洋裁店を経営して雇用主となった卒業生もいますが、全員が社会的に成功するわけではありません。でも、家を離れて訓練校で学ぶことで、本人が自立して生きていく勇気と自信を得られるのです。支援がその人の人生の希望につながるよう、できる限りの力を尽くしていきたいです」と話します。

ヤンゴン事務所長のワーワー(右端)と職員たち=2026年3月9日
21年2月の政変後ミャンマーでは内戦が続き、昨年3月には大地震に見舞われました。困難な社会状況の中でも、若者たちは一歩を踏み出しています。AARはこれからも、一人ひとりの可能性に寄り添い、働く喜びと自立への道をともに築いていきます。



